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British English イギリス人はこう話す・こう考える
光田達矢

写真:British English イギリス人はこう話す・こう考える

『British English イギリス人はこう話す・こう考える』を書き終えた今、唯一の心残りは、活きのいいイングリッシュ・ユーモアを十分に盛り込めなかったことです。相手とのコミュニケーションを計る目安として、「笑い」ほどわかり易いものはありません。心を動かす要素として、イギリス人は、世界のどの国よりもユーモアを大切にしているのです。

小学校から高校まで通ったイギリス時代、私が通信簿で一番嬉しかった評価は、成績優秀、授業態度良好、仲間への思いやり、という項目ではなく、「彼は素晴らしいユーモアのセンスがある」と書かれたことでした。時と場合に応じて、ユーモアを使い分けるセンスを心得ていることが、イギリス人には何にも代えがたいものなので、この感覚を身につけることこそ、私たちがイギリス英語に近づく上でも非常に有益に思えるのです。

本書では、イギリス人のハートをぐっと掴むヒントを随所に散りばめ、彼らの共感のツボを押すことの大切さを繰り返し説いたつもりです。そこから更に一歩踏み込んだテクニックとして、ネイティブを笑わせるコツを伝授するところまでは到達することができませんでした。この「笑い」が会話の特効薬になるだけに、紹介できなかったのが残念でなりません。

なんとかネイティブの溢れんばかりのユーモアを盛り込もうとしましたが、インタヴューという手段をとったため、本書にはホンの一部しか反映できませんでした。彼らの普段の会話の中には、ポンポンと調子よくギャグや愉快なネタが出てくるのですが、マイクのスイッチが入った途端、緊張からか表情は強ばり、質問にもありきたりの回答しかしてくれず、終には黙ってしまうのです。

今までのユーモアはどこへ行ったんだ?と彼らの態度の変化には、何度も頭を抱えました。ただでさえイギリス人は内気な性格で、打ち解けるのには時間がかかります。やっと会話に調子が出てきたところでマイクを取り出したのに、話をしてくれない彼らを前にして、本書の意義は達成できるのだろうか、と危惧を抱いた時期もありました。

他の手立てとして、用意した質問を読み上げ、それぞれに予測しうる回答を得る方法も考えましたが、それでは語り手の個性は現れないし、本書が目指した生の自然な会話の流れをお伝えすることはできません。彼らの表情が和らぎ、本来の調子を取り戻すまで録音し続けることで、何とか語り手の本音が聴けるインタヴューを20人分CDに収めることができました。インタヴューには苦心惨憺しましたが、日本の学習者に、イギリスの人々の生活や飾らない普段着の言葉を「真空パック」で現地直送できたと自負しています。

本著は、吉村幸子さんが書かれた『New Yorkers’ English ニューヨーカーはこう話す・こう考える』のイギリス版となりますが、ニューヨーカーのオープンでフレンドリーな会話に比べて、イギリス人の回答はぶっきらぼうに感じられるかもしれません。そういうイギリス人の性分に一番悔しい思いをしたのはパブでした。インタヴュー収録後は、語り手へのお礼にパブでビールをふるまうことにしているのですが、地元のパブには彼らの知り合いや友人が大勢集まってきて、自然と会話の輪が広がり、アルコールの勢いも手伝って話も盛り上がっていきます。ビールを飲みながら、サッカーから政治まで、一人が話をふれば、全員がイギリス風のボケとツッコミで笑いの渦になるのです。「何でインタビュー中に、それをやってくれないんだよ!」と思わずツッコミをいれた私でした。

お笑いイギリス英語を収録するのに、ワイワイとうるさいパブでは技術的に困難でしょうし、複数の人間が同時にしゃべろうとするので、さらに聞き取りにくくなってしまいます。こっそりテープに録音しようかとも思いましたが、これでは盗聴行為になってしまうため、法律・倫理上の理由で断念しました。

つまり、なりふりかまわず笑いをとろうと頑張るイギリス人の姿は、なかなかCDに入れにくいのです。このようなパブで繰り広げられる豊かなトークこそが、ナマ中のナマのイギリス英語だと考えています。是非、本書の付属CDを聴いてイギリス人のユーモアを、その片鱗でも感じ取れた方には、本場のパブで「笑い」を取ろうとするイギリス人を見に行ってほしいと思います。

『British English イギリス人はこう話す・こう考える』の詳細はこちら

2008年02月27日

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