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辞書を引いてもうまく訳せない人のための英単語イメージノート
渡部学

写真:辞書を引いてもうまく訳せない人のための英単語イメージノート

 もう20年ほど前のことになります。その頃,私はアメリカの学生に日本語を教えていました。
 その日私は学生に手伝ってもらって,研究室の引越をしていました。私が研究室の中で,段ボール箱から本を取り出していると,後ろから陽気な声でI’m stuckという声が聞こえて来ました。振り返ってみると,手伝ってくれた学生の1人が両手に段ボールの箱を抱えたまま,ドアに挟まれて笑っています。ドアを留めていた木製の留め具を蹴って,外してしまったのです。
 このときが英語のI’m stuckという表現を現実の場面の中で,音として聞いた初めだったのかもしれません。もちろんI’m stuckという表現は,小説とか雑誌の中で文字としては何度か目にしたことがありました。しかし正直言ってその意味がピンと来てはいなかった。それが,実際の場面の中で音を伴って,私の頭の中に生き生きと飛び込んで来たのです。
 意味が分かるようになってみると面白いことに,それ以降,私はこの表現を頻繁に耳にするようになります。数学の問題が解けなくて困っているとき,学生はI’m stuckと言います。また雪道を走っていて,車のタイヤがわだちにはまってしまったようなとき, I’m stuckという表現が聞こえます。あるいはコンピュータが固まって,画面が動かなくなってしまったようなとき。このようなとき,アメリカ人の口から飛び出してくる表現は決まって,I’m stuckです。
 現代の認知言語学では,このような言葉と状況の結びつきに言語の本質があると考えるようになっています。そしてこのstuckという言葉は,stick(杖・ステッキ),sticker(ステッカー),sticky(ネバネバする)といった一見バラバラの意味の言葉とも意味的につながっています。
 とはいえ1人の人が実際に体験できる経験には限りがあります。そこで私がこの本で目指したのは,例文を読んでその内容を想像するといった疑似体験を通して,英単語の意味とみなさんの経験を結びつけてもらうことでした。そのため大切なのは,もちろん,みなさんの実際の経験と想像力です。
 なぜなら言葉の意味は辞書の中ではなく,みなさんの頭の中にあるものですからね。

『辞書を引いてもうまく訳せない人のための英単語イメージノート』の詳細はこちら

2010年11月08日

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