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  • 著者のコラム

通訳ガイドのススメ―英語が「話せる」ようになりたい人へ #3

第3回 リクエストは「Shibuya Crossing!」

著者 新城宏治(株式会社エンガワ 代表取締役)

 大切なファーストコンタクト

ガイド当日の朝は、ゲストがお泊りのホテルのロビーで待ち合わせをします。東京に住んでいると東京のホテルに泊まる機会はほとんどないので、いろいろなホテルに行けるのは新鮮です。

ホテルによっては規模の大小もさまざまです。例えば、外国人にも人気の品川プリンスホテルの場合、ロビーが広いこともあるのですが、朝9~10時頃になると、ゲストとガイドの待ち合わせが何組もあって、自分の相手が見つけられないような場合があります。そのような場合は、ゲストのお名前を書いたサインを手に掲げてゲストを待ちます。

ホテルによっては似た名前の建物がたくさんあって、注意が必要な場合もあります。例えば、外国人にも人気のAPAホテルは新宿だけで4つもあります。住所を含めて正確な名前を確認しておかないと、行き違いになってしまいます。

ファーストコンタクトは明るく笑顔で挨拶し、今日の旅程を確認します。この際に、SuicaやPASMOなどのICカードを持っているか、多少の現金を持ちあわせているかなども確認します。以前、クレジットカード以外全く現金を持ち合わせていないというゲストがいました。キャッシュレス化が日本より進んでいる国は世界中にたくさんあり、テクノロジーが発達しているイメージのある日本なら現金は不要だろうと思っていたとのことでした。こんなことからも、インバウンド環境について日本でまだ足りていないところが見えてきて、なかなか面白いと思いました。

 英語力を伸ばすゲストからの質問

ホテルを出ると、駅までの道すがら、早速質問攻めに合います。

「なぜ道にゴミが落ちていないのか?」「なぜゴミ箱がないのか?」
→ 日本人の掃除に対する考え方や学校での清掃の時間などについて説明します。ゴミは家に持ち帰って、できればリサイクルに回すことなどを説明します。ゲストは気軽にコンビで飲み物を買いますが、飲み終わって容器を捨てようとするとゴミ箱がないので、必ずこの質問が出ます。

「歩道にある黄色いブロックは何だ?」
→ 視覚障害者向けの点字ブロックであることを説明します。実は、この点字ブロックは日本発祥もので、海外ではあまり目にしません。進行方向を示したり、横断歩道などの前で一時停止したりするサインであることを説明します。

「あの行列は何だ?」
→ 多くの場合、人気のある限定商品を買うために並んでいることを説明します。時々、開店待ちのパチンコ屋に並んでいる行列について聞かれるのですが、これは答えに窮するというか、恥ずかしくてあまり答えたくないので、行列のできているパチンコ屋の前の道は避けて通るようにしています(笑)。

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仏教は6世紀にインドから中国や朝鮮半島経由で日本に伝わりました

電車に乗った後も質問は続きます。

「なぜみんな静かなんだ?」「なぜ寝てるんだ?」「なぜ電車の中がきれいなんだ?」
→ なかなか答えるのが難しいのですが、家から会社までの通勤に長時間かかる人も多いので、各々、通勤時間を有効に活用しているなどと説明しています。メールやニュースをチェックしている人もいれば、睡眠不足を解消している人もいるのだと。この後に、必ずと言っていいほど「東京の地下鉄に比べてニューヨークの地下鉄は全く……」というゲストの話(愚痴)になります。

「日本人の服の色はなぜ地味なんだ?」
→ これも時々聞かれます。特に地味だとは思わないのですが、海外と比較するとそうなのかもしれません。ビジネススーツでは落ち着いた色が好まれること、学校には制服があることが多いことなどを説明します。

目的地までさまざまな質問が続きますが、初めて日本に来たゲストにとっては、目にするものが何もかも新鮮なのだろうと思います。こういったやりとりを通して、英語での説明力は間違いなく伸びていきます。

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宗教についてもよく質問されます
鳥居があるのは日本古来の神道です

 東京で人気がある観光地

最後に、外国人ゲストの人気のある東京の観光地ベスト3を挙げたいと思います。

第3位:浅草
どんなガイドブックにも必ずと言っていいほど浅草寺の雷門の写真が載っており、外国人ゲストの間で浅草は有名です。仲見世通りでお土産も買えますし、ストリートフードも楽しめます。ガイドの間では、浅草寺のおみくじは凶が出やすいという「都市伝説」が有名です。浅草寺でゲストがおみくじを引きたいと言ってきた時には、内心ヒヤヒヤしています(笑)。

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浅草にあるアサヒビール本社横の金色のオブジェについても必ず質問されます

第2位:築地
魚市場が豊洲に移った後も、築地のブランドは健在です。「豊洲に行きたい」と言ってくるゲストはまだあまりいませんが、「築地に行きたい」と言ってくるゲストはたくさんいます。もともと築地場外市場はそれほど広い区域ではないので、週末はすごい人込みになります。ゲストが築地を希望する場合は、朝早めに行って、お寿司や海鮮丼、食べ歩きなどを一緒に楽しみます。

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豊洲のマグロのセリは7時には終わってしまいます
見学したいなら早起き必須です

第1位:渋谷
多くのゲストがリクエストしてくるのは、渋谷駅前の「Shibuya Crossing」です。ここは、週末の夕方の人がたくさん出ている時間帯を狙います。ゲストは大喜びで、道を渡りながら動画を撮ったり、何度も横断を繰り返したりします。これだけ多くの人がぶつからずに行きかうのは奇跡だとゲストは言います。日本人の私の目から見ると、正直、ここがそこまで魅力のある理由が未だによくわからないのですが。。。


この記事を書いた人:新城宏治
1965年生まれ、千葉大学文学部史学科卒業。株式会社アルクで30年間、語学書の編集に携わる。2020年に独立して株式会社エンガワ創設。現在、株式会社エンガワ代表取締役のほか、大学の非常勤講師、NPO活動などにも関わる。

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