書籍詳細

歴史は景観から読み解ける
身のまわりの風景や景観から過去の人々の営みを読み解く

歴史は景観から読み解ける
著者名
上杉和央
ISBN
978-4-86064-634-9
ページ数
215ページ
サイズ
四六判 並製
価格
定価1,870円 (本体1,700円+税10%)
発売日
2020年10月14日発売

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内容紹介

「昔、天橋立はもっと短かった」というと驚かれるでしょうか? 実はあることが理由で、17世紀後半から急激に延びたといわれています。このように現在なんの疑問もなく見ていた景色にも、そこに刻まれた痕跡や古地図・史料をもとに調べてみると、意外な事実が隠されていることがあります。本書では、何の変哲もない交差点から道や観光地、そして重要文化的景観まで、それらの景観に潜む歴史を「歴史地理学」の手法で実際に解き明かしてきます。「この場所には昔なにがあったのか」「この地域は現在までどのように変化してきたのか」など、ある場所に積み重なった歴史を辿るおもしろさにあふれる一冊です。

著者コメント

(「はじめに」)より

 私は現在、京都に住んでいます。大学進学にあたって京都で一人暮らしをはじめ、大学院も最初の職場も、そして今の職場もずっと京都。気が付けば、生まれ故郷の香川で住んだ年月よりも京都暮らしのほうが長くなっています。ずっと京都に暮らすことになるとは夢にも思いませんでしたが、歴史の色濃く残る京都で日々を過ごせることは、決して悪いことではありません。いや、歴史に関心を寄せる者にとって、それは幸せなことです。
 同じような気持ちは、私の所属する京都府立大学文学部歴史学科の学生も持っているようです。歴史学科には毎年、全国から学生が入学してきてくれますが、志望動機は「京都で歴史を学びたいから」という学生がたくさんいるからです。全員が研究者になるわけでは決してありませんが、確かに、歴史の好きな学生にとって、京都は魅惑的な土地だと思います。
 ただ、こうした学生とは違い、私自身は「京都で歴史を学びたい」と思って京都の大学への進学を決めたわけではありません。正直に言えば、そうした気持ちはみじんもありませんでした。というのも、高校生の頃の私は歴史にはほとんど興味がなく、高校でも日本史の授業は選択していませんでした。当時の私が好きだったのは「歴史」ではなく、「地理」です。「京都で地理を学びたい」という奇特な(?)青年だったのです。
 そんな青年がなぜ歴史に興味を持つようになったのか。それは「歴史」と「地理」は、二者択一のものではなく、密接に関わる運命共同体、いわば一蓮托生の間柄だということに気が付いたからです。京都に来て最初の衝撃が、まさにこの発見でした。実際は自分で気が付いたのではありません。「歴史」と「地理」の交差点に立ち、全体を見渡す学問―歴史地理学―に出会ったからです。高校生の頃はまったく知りませんでしたが、京都はこの歴史地理学の盛んな地域の一つでした。今でも、おそらくそれは変わりません。そうした地で研究できるのは、歴史地理に関心を寄せる者にとって、とても幸せなことです。
 歴史地理学の古典的なテーマの一つに景観の歴史、というものがあります。ここには、平安京の時代の京都を復原するといったように、過去の特定の時点の景観を復原するという視点と、古代から近世にかけての京都の変遷といったように、景観変遷をとらえる視点の大きく二つが含まれています。これは地域の個性とその変化をたどることに他なりません。また、現在の景観から過去の景観をとらえるといったような「現在↓過去」といった方向の視点もあります。こうした視点を時と場合によって使い分けながら、日々どこかの地域の景観の歴史と戯れる。それが歴史地理学の一つの側面です。
 ただ、こうした方法は必ずしも専門的なスキルを高度に身に付けていないとできないというものではありません。もちろん、詳細な検討となれば個別の史資料やデータと格闘しなければなりませんので、さすがに専門家でないと無理ですが、景観の大きな変化や場所の個性の抽出といった点については、少しの知識と少しのノウハウがあれば、誰でも取り組むことができます。たとえば、現在、小学校の社会科の授業で最初におこなうのが小学校区の「まち探検」です。これは地域の個性を探ることに他なりません。そこに「昔からあった神社について知ろう」、「この施設はいつからあるのか聞いてみよう」といった調べ方を取り入れるのであれば、それはまさに歴史地理学の第一歩です。景観の歴史を知ることと、地域の個性を知ることとは、大きく重なる部分があります。小学生は自分のまちを学びますが、中学、高校、そして大学となるにつれて、いろいろな地域の個性に関心が広がっていきます。そうした関心に応えてくれる、とりわけ歴史との関わりで応えてくれるというのが、歴史地理学なのかもしれません。
 本書は、そうした景観や地域の個性を読み解く歴史地理学的アプローチのいくつかを紹介しようと思います。理論的、もしくは方法論的に書くことも考えましたが、それは大学や大学院に来て学べばよいこと。それよりもいろいろな事例を紹介していくなかで、そうした読み解き方のノウハウを知ってもらうほうがよいと思い、基本的にはある場所の景観を読み解いていく、というスタイルにしています。もちろん、その場所についての知識を得るための本として利用してもらってもいいですが、読み解き方にも気を配ってもらえると嬉しく思います。
 また、2005年以降、景観や地域の個性に価値を認め、文化財(文化的景観)として選定する動きが活発になっています。2020年8月現在、国内には65件の重要文化的景観がありますが、選定された地域では自分たちの場所の個性を大切にした地域づくりをし始めています。文化的景観の選定にあたっては、さまざまな分野からの調査や検討が必要であり、歴史地理学の視点だけでどうにかなるものではありませんが、今後、景観や地域の個性を語るには、この文化的景観についての理解は不可欠だと思いますので、本書の後半では私が調査や検討に携わった文化的景観のなかからいくつか取り上げて、紹介することにします。
 なお、事例地を挙げて説明するという手法では、どうしても漏れ落ちる視点もあります。また、景観の理解と密接に結びつくものとして、景観イメージであったり、風景観であったりといった側面もあります。これらについては、コラムとして短くまとめることにしました。箸休めとして気軽に読んでいただければ、と思います。

著者プロフィール

上杉和央(うえすぎ かずひろ)

香川県出身。博士(文学)。京都府立大学文学部准教授。
京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。
京都大学総合博物館助手・助教、京都府立大学文学部講師を経て現職。
日本の景観史に関する研究、および文化的景観の調査と保存活用についての研究と実践をおこなっている。

主著
『江戸知識人と地図』 京都大学学術出版会
『地図から読む江戸時代』 筑摩書房

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