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  • 著者のコラム

中国・アメリカ・日本 言語から文化を学ぼう #1

著者 余田志保(フリーランス編集者、ライター)

こんにちは。 7月の連載を担当する、フリーランスで学習書の企画・編集をしている余田志保です。今回は、夫が赴任中の中国・広州に1年間滞在したときに感じた、中国、アメリカ、日本の文化の違いについて書いていきます。全4回の連載、よろしくお願いします!


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全高600mを誇る中国一高い電波塔である広州タワー。ランドマークとして親しまれている。

中国人は、大声で直接的に話す?

2022年3月、夫が赴任中の中国に住むために息子を連れて渡航した。当時はゼロコロナの真っ只中。渡航後には「3週間にわたるホテル隔離」の洗礼をしっかり受けた。
閉ざされた空間での21日を終えて、晴れて自由の身になった日、久しぶりに「道を歩けたこと」に感動しつつ、家族で日本料理屋に向かった。街の喧騒から離れ、個室に通されて心を緩めた矢先、隣の個室から何やら男女が怒鳴り合っているような声が……。ハッとする私を見て、冷静な夫が「大丈夫、あれは喧嘩じゃなくて普通に話してる」と教えてくれた。

食事を済ませ、野外PCR検査会場に行くと長蛇の列が待っていた(当時は定期的にPCR検査を受ける必要があった)。亜熱帯気候特有のむわっとした蒸し暑さのなか、何十分も並ぶのはしんどい。クレームなのか、女性とPCR職員が声を張り上げて何か言い合っている。それが広東語なのか普通話なのか、当時の私には全く理解不能だった。

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ゼロコロナ下ではPCR検査が必須。老若男女がスマホ片手に並ぶ光景がいたるところで見られた。

外界と遮断された隔離ホテルから一転、歩行者、車、電動バイクと自転車で入り乱れた騒がしい街をビクビク進みながら「ああ、本当に中国に来たんだな」と思ったのを覚えている。

「中国人は、声が大きくて、物事を直接的に伝える」

お恥ずかしい話「中国人は声が大きい人が多い」から「物事ストレートに伝える」と、私はずっと思い込んでいた。渡航前まで中国人と深く接したことがなかったのに! 滞在中に中国人と接し、中国語(普通話)を学んでから、これが間違いだったことに気づく。

曖昧な中国語、明確な英語

実際のところ、中国人は物事を曖昧に伝えることがある。言語はそれを話す人たちの行動や思想に影響されて成り立ってきた。だから、言語を掘り下げて分析することで人々の文化が見えてくる。中国語に関して言うと、英語はもちろん日本語よりも曖昧だと思う。
例えば、中国語には時制が存在しない。

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過去のことを伝えたいとき、例文のように日本語は「暑い」を「暑かった」に、英語は is を was に変化させる。それに対して中国語は述部を変化させない。そこで「過去のことを話している」と判断するときに頼りになるのが「昨天」(昨日)といった「時を表す副詞」だ(中国語には「過去である状態」を表す「了」があるが、これは「アスペクト助詞」で時制ではない)。

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未来のことを伝えるときはどうだろう。英語だと be going to(またはwill)で明確に表す。一方で中国語と日本語は曖昧だ。「今天晚上」(今夜)を手がかりに、未来のことを話していると理解するしかない。

まとめると、時制がない中国語では動詞の形に頼らずに「時を表す副詞」を聞き逃さないようにして、文脈に注意しつつ「いつのことか」を判断するのだ。

日本語ってハイコンテクスト? ローコンテクスト?

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エリン・マイヤー著、英治出版『異文化理解力』図1-1を一部転載

『異文化理解力』のなかで、著者のエリン・マイヤーは、コミュニケーションをローコンテクスト、ハイコンテクストにわけて、国別に配置している。ローコンテクストな国々ではメッセージは明確に伝えられる。一方でハイコンテクストでは行間で伝えられ、ほのめかすことも多い。日本は世界一ハイコンテクストな国であり、隣には中国がいる。対極に位置するのがアメリカだ。
図を見ると、アジアの国々は仲良くハイコンテクストなのが面白い。例えば、ヒンディー語の単語“kal”には「明日」と「昨日」という2つの意味があるらしい。それで誤解が生まれないのか心配になるが、動詞の時制を頼りに判断するという。

「お口に合うかわかりませんが」の中国語と英語。

ここで私が学習している中国語テキストの一部を紹介しよう。ある男性が友人の家を訪問したとき、友人の両親に挨拶している場面だ。

男性: 我带了两盒美国的巧克力,不知道你们喜不喜欢。
 (アメリカのチョコレートを持ってきました。お好きかわかりませんが)

友人の親:  哎呀, 让你不要带东西, 客气什么呀!
 (ええ、持ってくる必要ないのに。気をつかわないで!)

会話中の「不知道你们喜不喜欢」は「お口に合うかわかりませんが」や「たいしたものではありませんが」に相当する。謙遜が美徳とされる文化で育った日本人としては、親しみがわく表現だ。授業中に先生が「これは儒教の教えが表れた中国らしい部分」と嬉々として語っていたのを思い出す。

一方で、この会話をアメリカ人のクライアントに見せたところ “I think that would sound kind of negative to Americans.” と指摘してくれた。このような応答は、アメリカ人にとっては少しネガティブに映るようだ。代わりに彼らは “I hope you like it.”(気に入ってくれるといいな)と明確に伝えるはずだ。

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LEGOで表現した中国文化。外国資本を取り入れつつ、自国の素晴らしさを表現していて見事!

いかがでしょうか。言語は、その言葉が話される国の文化や習慣と深く関わっています。中国語と英語、そして母国語である日本語を比較するなかで、それぞれの文化の違いや共通点が見えてきますよね。次回の記事でも、言語を比較することで文化の違いを探っていきます。

参考文献:
・『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』エリン・マイヤー(著)、田岡恵(監訳)、樋口武志(翻訳)/英治出版
・『我的汉语教室』徐文静、施琳娜/人民教育出版社
執筆協力:Brooke Lathram-Abe


記事を書いた人 余田 志保
フリーランス編集者、ライター
2008年、早稲田大学第一文学部英文学専修卒業。
出版社にて語学書の編集経験を積んだのち、2016年に独立。
近年は、IELTSの実施団体であるIDP Education Japan公認のIELTS学習書の企画・編集に力を入れている。
中国語と英語を勉強中。現在の目標は、HSK6級を取得して中国語学習書の編集をできるようにすること。普段は、ラジオを聞いたり読書をしたり。ヨガとネコが好き。

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