2025.07.04 著者のコラム 『あなたの知らない、英語のリズムとイントネーションの世界』第1回:リズム編 著者 サラ “英語の自然なリズム”って何?:英語のリズムに沼る夜 ◇はじめに はじめまして、今日から新連載「あなたの知らない、英語のリズムとイントネーションの世界」を担当するサラといいます。らいひよ®︎というオンライン英語スクールの代表をしています。 この連載では、英語学習者なら誰もが一度は抱く「あれ、結局これってどういうことなんだろう?」という素朴な疑問を、「英語のリズムとイントネーション」の視点から一緒にひも解いていきます。 今回は「英語の自然なリズム・不自然なリズムってなんだ?」ということについて考えてみたいと思います。 文の中で「どこが強く読まれて、どこが弱く読まれるか」を深掘りしていきます。 ◇ウォームアップ さて、突然ですが、以下の英文を声に出して読んでみてください。その際、以下の質問も考えながら読んでみてください。 “It was a total mistake,” she said. 「それは完全な間違いだった」と彼女は言った。 【質問】 どの単語(正確には音節)を「強く」読みましたか? 強く読んだ箇所が複数ある場合、どこを「最も強く目立たせて」 読みましたか? 上記英文の文構造は複雑でなく、それほど難しい単語もありません。しかし、生徒さんにこの文を読んでみてくださいと頼むと、多くの方が「不自然なリズム」でこの文を読んでしまいます。 ◇「英語的に不自然なリズム」ってつまりどういうこと? そもそも、「不自然な英語のリズム」とはどういうことなのでしょうか?この文は以下の1のように読むのが「自然」なのですが、2のように読んでしまう人が多い印象です。以下の音源1と2を聴いてみて、何が違うのかを考えてみましょう。 ■1と2の音声(←音声はこちらから視聴可能です。) 1ではsaidを弱く読んでいますが、2ではsaidを強く読んでしまっています。 このような動詞sayなどを使った「引用文」は、英語の文章で非常によく出てきますが、実は読み方のポイントがあります。 【 引用文の読み方のポイント 】・ “〜,” she said. のタイプの「引用文」では、saidなどの「伝達動詞」はアクセントを置かずに弱く読む。・“〜,” とshe saidの間に大きなポーズを入れないで一息で読む。 “It was a total mistake,” she said.という文ではmistakeの-TAKEの部分がこの文で最も強く読まれる「核」で、引用文の後の伝達動詞saidはアクセントを受けないで弱く読まれます。 多くの学習者はsaidなどの「伝達動詞」を強く読み過ぎています。(△)をつけた2の読み方も間違いではありませんが、より自然なのは(◎)が付いている1の読み方です。また、“It was a total mistake,”とその後のshe saidとの間は、大きなポーズを入れずに一息で読むとうまくいくはずです。 このように、英語母語話者ならふつう「弱く」読むべきところを「強く」読んでしまったり、逆に、「強く」読まれるのがふつうなところを「弱く」読んでしまったりすると「不自然なリズム」となってしまいます。 ◇伝達動詞を弱く読む練習 同様の例で練習してみましょう。以下の英文を読んでみます。 “What a beautiful teapot,” she muttered.「なんてかわいいティーポットなの」と彼女はつぶやいた。 以下3のように「伝達動詞」mutteredを弱く読めば「自然なリズム」です。teapotの後に大きなポーズを入れずに読めばうまくいくはずです。一方、4のようにmutteredを強く読むと「不自然なリズム」となってしまいます。 ■3と4の音声(←音声はこちらから視聴可能です。) ◇「自然な英語のリズム」で英文を読むにはどうしたらいいの? 英文を「自然なリズム」で読むためには、どこを強く/弱く読むかに関する「リズムのルール」を知識としてたくさん知っていることが重要です。例えば、今回の記事で扱った “〜,” she said. のタイプの「引用文」も、「saidは弱く読まれる」というルールを知らなければ自然なリズムで読めないのは無理のないことです。 また、英文を読む前に、「弱く」読むべきところ、「強く」読むべきところを吟味・決定してから英文を読み始める、という練習をするのもおすすめです。例えば、“It was a total mistake,” she said.という文を読む練習をするときは、練習前に「強く読むのはto-と-takeだけ。あとは弱く」という意識をしっかり持つ→その後で練習、というイメージです。 ◇英語の「リズム」とは? 最後に、英語の「リズム」とは結局なんなのか、についても簡単にまとめておきましょう。リズムは音の強弱や長短が規則的に繰り返されることを言いますが、「どこが強く読まれ、どこが弱く読まれるかの強弱の連なり」と覚えておきましょう。 たとえば本記事で紹介した“It was a total mistake,” she said.を、異なる大きさの黒丸(●)の図で表すと以下のイメージですが、 リズムが強弱の「連なり」である、というのが理解できると思います。ただ、この定義が難しく感じるなら、もう少し簡潔に、 リズム =「どこを強く読み、どこを弱く読むか」 くらいに捉えておくくらいでも十分だと思います。ここまでお読みいただきありがとうございました。先ほど、リズムのルールを知識としてたくさん知っていることが重要だと言いましたが、本連載記事で引き続き、英語のリズム・イントネーションの重要知識や面白さをお話ししますのでお楽しみに! 参考にした書籍今回の内容に興味がある人は以下の書籍ものぞいてみましょう。・Allen, W. S.『Living English Speech』(Longman)・渡辺和幸『現代英語のイントネーション』(研究社出版)・渡辺和幸『英語イントネーション論』(研究社出版)・渡辺和幸『英語のリズム・イントネーションの指導』(大修館書店)・Wells, J. C.『English Intonation: An Introduction』(Cambridge University Press) 【補足】・今回はリズムの観点から“It was a total mistake,” she said.を分析しましたが、1と2はshe saidのイントネーションも異なります。1の読み方ではshe saidは低くほぼ平坦なイントネーションとなるのがふつうですが、2の読み方ではsaidで下降調が使われている、と言うことができます。・“It was a total mistake,”とその後のshe saidとの間は、実際はポーズが入っていることもありますが、1つの「イントネーション句」のため、学習者は「大きな区切り」を入れずに読む練習をしましょう。・saidなどの伝達動詞には「リズム強勢」(ビート)があるという考え方もありますが、弱く読まれるため、本記事では小さい●で表記しました。 この記事を書いた人:サラオンライン英語スクール「らいひよ®」代表。コロンビア大学大学院卒 英語教授法修士。コロンビア大学での修士課程修了後、TOEIC・TOEFLなど作成するアメリカ最大のテスト作成機関 Educational Testing Service(ETS)プリンストン本社で問題作成者として勤務。著書『Q&Aサイトから読むアメリカのリアル』(アルク)アメリカのニュース視聴を日課とし、リアルな英語や文化に触れ続けることを大切にしています。大学院進学前は、バックパック旅に魅了され、世界一周を達成。YouTube「らいおん英語チャンネル」・Xなど運営メディア一覧はこちら。今後ベレ出版を通して、英語のリズム・イントネーションの面白さをみなさんに詳しくお伝えしていく予定ですのでお楽しみに!