検索
  • 著者のコラム

Mystery Parrotコラム第2回:「アジア系アメリカ人の英語」の特徴とは?

著者 Mystery Parrot (ミスパロ)

米国で生まれ育ち、流暢な米英語を話す「アジア系アメリカ人」の英語を、聴覚的な手がかりだけで聞き分けることは可能でしょうか? 
これを検証した研究や実験はいくつか存在します。最も代表的なのは、デューク大学のマイケル・ニューマンとアンジェラ・ウーによって 2011 年に行われた実験。『英語を話すとき、あなたはアジア系に聞こえているか?』と題された研究です。
結論から言うと、「話者がアジア系であることを偶然以上の確率で当てられた」と報告しています。

最近では、Boldvoice.com など非ネイティブ向けの発音アプリがいくつか出回っていますね。TikTok には生まれも育ちも米国のアジア系アメリカ人が、この種のアプリに自分の発音を分析させる動画があふれています。
そのような動画を見ると、「父祖の国を一回でピタリと的中」とまでは行かないのですが、「何度かテストを重ねるうちにかなりいい線まで推定する」ケースが多いようです。

次の動画は、生まれも育ちもアメリカの中国系アメリカ人の女性が Boldvoice.com を試す様子。
この女性は、米国のネイティブスピーカーにも「標準的で流暢なアメリカ英語」と感じさせる音声ですが、アプリは父祖の国である「 中国」を割り出します。

《what’s your accent?》

下の動画は、壇上で男性数人が目隠し状態で言葉を交わし、「話し相手がアジア系かどうかを当ててみる」という実験の模様。
数分間リラックスした状態で談笑した結果、聴覚だけでかなり自信たっぷりにお互いを判別し合う様子がうかがえます。

《Can You Guess the Asian American Accent? 🤔🎙️》

では、いったいどういった要素を手がかりに「アジア系」という判断を下しているのでしょうか。
発音アプリに関しては企業秘密ということもあり、具体的な判定方法は公開されていないようです。
他方、SNS 上で「アジア系かどうかわかる」と断言している人々が判断材料にしているのは、以下の事柄のようです。

アジア系アメリカ人の「英語音声」は、一般のアメリカ人と比べて「やや平坦で抑揚に欠ける」感じ。
中国語、韓国語、日本語、どれをとっても英語と比べて喉をあまり使わず、口腔の中で平坦に話す傾向が強いからかもしれません。SNS で定期的に話題に上がる「英語喉」などもこの点を念頭に入れた英語学習法ですね。

その反面、「一つ一つの音節」は「むしろ不自然なくらい明瞭」。それと同時に「文法的な正確さ」も感じさせ、「アナウンサーのようななめらかな英語」とも。同じことを「優等生っぽいしゃべり方」と表現する人も。
アジア系アメリカ人の親世代は、英語が母語ではないことが多く、メディアで耳にした英語や、学校の先生がお手本になるケースも。また、英語が流暢でない親世代と日常的に会話することも多いため、あえてはっきりと明瞭な発音を意識して喋っている可能性も考えられます。
いずれにしろ、こうした特徴が相混ざったアジア系アメリカ人の英語は、全体的に「知的で裕福な印象」を与えるようです。

さらに、音声は男女ともにやや高め。アジア地域の人々の音声は欧米人に比べて高めと言われているので、これも納得の結果です。
でも、この「少し高めの声」と「模範的な話し方」が合いまった結果、「アジア系アメリカ人男性の話し方」には、男性にありがちな放埓さが少ないとも。その結果、「この人、ひょっとしてゲイ?」「でもゲイにしては感情表現が少ないような…」とも感じられるそう。

「なぜそれがゲイになるのか全く理解できない」という方は、この次の動画で俳優のコール・エスコーラ (ゲイ)が、「ストレートの男の話し方の特徴は、言葉を明瞭に発音しないこと」とし、その様子を披露する様子をご覧になって下さい。きっと納得されると思います。
(動画 4:40 より)

「アジア系アメリカ人の女性の話し方」にも同様の傾向が見られます。ですが、それに加えて「バレーガール (valley girl) を思わせる、文の切れ目で音が上がり調子になる話し方」が混ざる人も。
バレーガールは「南カリフォルニアのおしゃれで軽薄なノリの女の子」。アジア系アメリカ人が多く住む地域は、バレーガールの生息地とも重なるので、これも不思議ではありません。
さらに、アジアの国々は欧米と比べ、「女性に周囲の意向を汲み取ることを奨励する文化」が根付いていると言われます。そのため「話すときに聞き手の承認を求めるような上がり調子の語尾になるのでは?」といった推測もなされています。

私たちの話し方は、「周囲の人間からの影響」のほか、「なりたい自分」を念頭に置いた「個人の選択」という側面も含まれますね。
「知的」「裕福」「バレーガールっぽい」といった印象は、個々のアジア系アメリカ人が、自らの話し方の中に選択的に取り入れた要素が混ざり合い、アジア系アメリカ人コミュニティの中で醸成されていった結果かもしれません。

同時に、「優等生」は「ガリ勉ナード」、「ゲイっぽい 」は「男なのに男らしくない」、「バレーガールっぽい」は「男に媚びるぶりっ子」などと言い換えることも可能です。そしてこれらは、アメリカ社会が歴史的にアジア系アメリカ人に付与してきた、さまざまなステレオタイプを想起させます。
そのため「アジア系アメリカ人の話し方を特定できる」という考えは、結局は「この種のステレオタイプを再投影しているに過ぎないのでは?」といった議論も SNS上 では活発。
今後、「アジア系アメリカ人の英語」を考察する際には、こういった事柄も同時並行的に検証されるべきであるのは言うまでもありません。


記事を書いた人:Mystery Parrot (ミスパロ)
エンタメ翻訳家。幼少期より日米間を往復。アメリカの現地高校を卒業後、国際基督教大学にて学士号、アイビーリーグ校 University of Pennsylvania にて修士号 (Master of Liberal Arts in Philosophy) を取得。
住友商事の NY 現地法人で勤務の後、Accenture NY 本社 にて日本・アジア向けイントラネットコンテンツ作成。その後、ミステリーからロマンスまで様々なジャンルの文芸作品、国民的人気アニメ、ベストセラービデオゲーム等の翻訳に専念。
こう書くとあたかも生産的な人生を送ってきたように聞こえなくもありませんが、読書やゲームに耽溺し、廃人同様の生活を送った時期も長く、常にその時期への郷愁を胸に抱えて生きています。
X では物心ついた頃から住んできた米国の政情や文化、英語版 Xで目についたツイートのシェア、時折は英語フレーズの解説なども行っています。@ParrotMystery にてぜひフォロー下さい。

学びたい人応援マガジン『まなマガ』

ベレ出版の新刊情報だけでなく、
「学び」に役立つさまざまな情報を月2回お届けします。

登録はこちら

ベレ出版公式SNS

週間ランキング情報やおすすめ書籍、書店様情報など
お知らせしています。ベレ出版マスコット犬「なみへいさん」の
LINEスタンプが登場!