2025.07.11 著者のコラム 『あなたの知らない、英語のリズムとイントネーションの世界』第2回:アクセント編 著者 サラ 「除アクセント」を知ったら英語のリズムが全然違って聞こえてきた話 こんにちは、連載「あなたの知らない、英語のリズムとイントネーションの世界」を担当しているサラです。第2回は、英語のリズムを作るのに重要な「アクセント」について。前回同様、文の中で「どこが強く読まれて、どこが弱く読まれるか」を深掘りしていきます。 ◇ウォームアップ 突然ですが、以下のAとBの2文を声に出して読んでみてください。こちらはJ. C. Wells著『English Intonation: An Introduction』というイントネーションの世界的名著から引用した例ですが、BのI hate doing the laundry. という文に注目して、どこを「強く目立たせて」読むのかを考えてみましょう。 A: You should wash the clothes. 服を洗ったほうがいいよ。B: I hate doing the laundry. 洗濯は嫌いだよ。 Bを2つの異なる読み方で読んだ音源を以下に載せました。B1とB2では何が異なっているかを考えながら一度聞いてみましょう。Bの黒丸 ● は、小さめの黒丸が「弱く読まれる」箇所を、大きめの黒丸が「強く読まれる」箇所を示し、リズムを表しています。 ■B1とB2の音声(←音声はこちらから視聴可能です。) B1のように読んだ方が多いのではないでしょうか?つまり、hate, doing(のdo-), laundry(のlaun-)の3箇所を強く読むという読み方です。*この記事では詳しく扱いませんが、ちなみにB1ではlaundry(のlaun-)がこの文で最も強く目立つ「核」となっています。 B1の読み方でも、間違いではありません。hate, doing, laundryの3語は、文の中で意味的に重要な役割を果たす「内容語」と呼ばれ、「内容語」は基本的に強く読まれるためです。 しかし、この文はB2のように読まれることもあります。つまり、doingとlaundryを弱く読む読み方です。なぜB2のように読まれることもあるのでしょうか? ◇除アクセントとは 英語のリズム・イントネーションの世界で非常に重要な「除アクセント」(deaccent)という概念があります。これは、簡単に言えば、文の中で本来強く読まれるべき箇所が、何らかの理由によってアクセントなしで弱く読まれることで、極めて頻繁に起こる現象です。 「除アクセント」が起こる理由は様々ですが、大雑把にいえば、意味的に「重要度が低い情報」は「除アクセント」されることが多いといえます。今日はぜひこのことを覚えていただきたいと思います。 ◇なぜdoing the laundryは弱く読まれるのか 先ほどの例を分析してみましょう。Aの発話では、「服を洗う」を表すwash the clothes は「新情報」で重要な情報です。一方、Bはdoing the laundryという言い換え表現を使ってはいるものの、「服を洗う」=「洗濯をする」ことはすでにAの発話の時点で話題になっており、doing the laundryは情報価値が非常に低いことがわかります。 よって、Bの発話で重要なのはhateのみで、このためhateだけが強く目立って読まれています。Bの発話はI hate it. のように、itで置き換えてもほぼ同義になることから、doing the laundryはあまり重要でないことが分かります。簡単にいえば、doing the laundryはwash the clothesの単なる繰り返しに過ぎないのです。B1のように読むと、状況によっては少し「くどい」言い方になってしまうため、情報の流れを理解しているならぜひB2のように「除アクセント」して読んでみましょう。 ◇意味的に重要度が低く除アクセントされる例 他にもこのように意味的な重要度が低いために「除アクセント」されるパターンを見てみましょう。以下の3と4の2文のBに注目して、どこを「強く目立たせて」読むのかを考えてみましょう。 ■3A: Have you finished the assignment? 課題は終わった?B: I really hate doing the task. そのタスクをするのは本当に嫌いだよ。 ■4A: I bought it from Bill. Billからそれを買ったんだ。B1: When did he sell it to you? いつ彼(Bill)は君に売ったの? 「除アクセント」された場合と、「除アクセント」されていない場合のリズムの違いが分かるように以下に音源をつけたので、それぞれ2つの読み方を聞いてみてください。3も4も、ぜひB1のように「除アクセント」して読んでみましょう。 ■3Bと4Bの音声(←音声はこちらから視聴可能です。) ◇比較的長い範囲が除アクセントされる例 以下の英文5のように、比較的長い範囲が弱められることもあります。 ■5It's awful the way they manipulate the people of the country.彼らがこの国の人々を操作するやり方には本当にうんざりする。 ある国の政治について話している文脈ですが、「この国の政治は酷い」と言いたい場合、「除アクセント」ありのパターンと、なしのパターンを聴き比べてみてみましょう。■5の音声(←音声はこちらから視聴可能です。) この例はD. L. Bolinger著『Intonation and Its Parts』というイントネーションの世界では非常に有名な本より引用しました。the way〜以降を全て弱く読めば、awfulという形容詞だけが際立ち強調されるので、感情的に表現したい場合ピッタリの言い方です。つまり、the way〜以降の情報はもう聞き手に共有されており、「あってもなくてもいい」くらいの読み方で、ほとんどIt’s awful!と言っているのと同じくらいになります。 なお、「除アクセント」されているway, manipulate, people, country などの語では「リズム強勢」と呼ばれるビートを少し感じるかと思いますが、この文で最も目立つ核となるのはやはりawfulですので、awful以外は全て弱く読んでしまいましょう。 ◇なぜ除アクセントが重要なの? 「除アクセント」される箇所は「弱く素早く」読まれるので、特に速い発話でのリスニングでは、「聞き取れない原因」になることがあります。また、自分が英語を話すときも、会話の中で重要度の低い情報全てにアクセントを置いてしまうと、スピード感を持って流暢に英語を話すことは難しくなります。 このように、リスニングにおいてもスピーキングにおいても「除アクセント」は非常に重要なのです。ぜひ今日からリスニングやスピーキングで「除アクセント」に注目してみてください。きっと英語が違って聞こえてくるはずです。 ここまでお読みいただきありがとうございました。「英語のリズムって面白いな」と思っていただけると幸いです。次回の連載3回目の記事でも、英語のリズム・イントネーションの面白さをお話ししますのでお楽しみに! 参考にした書籍今回の内容に興味がある人は以下の書籍ものぞいてみましょう。・Bolinger, D. L.『Intonation and Its Parts: Melody in Spoken English』(Stanford University Press)・渡辺和幸『英語イントネーション論』(研究社出版)・渡辺和幸『英語のリズム・イントネーションの指導』(大修館書店)・Wells, J. C.『English Intonation: An Introduction』(Cambridge University Press) この記事を書いた人:サラオンライン英語スクール「らいひよ®」代表。コロンビア大学大学院卒 英語教授法修士。コロンビア大学での修士課程修了後、TOEIC・TOEFLなど作成するアメリカ最大のテスト作成機関 Educational Testing Service(ETS)プリンストン本社で問題作成者として勤務。著書『Q&Aサイトから読むアメリカのリアル』(アルク)アメリカのニュース視聴を日課とし、リアルな英語や文化に触れ続けることを大切にしています。大学院進学前は、バックパック旅に魅了され、世界一周を達成。YouTube「らいおん英語チャンネル」・Xなど運営メディア一覧はこちら。今後ベレ出版を通して、英語のリズム・イントネーションの面白さをみなさんに詳しくお伝えしていく予定ですのでお楽しみに!