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  • 著者のコラム

『あなたの知らない、英語のリズムとイントネーションの世界』第3回:イントネーション編

著者 サラ

「下がるの?上がるの?」— WH疑問文のイントネーションの常識を再考してみた

 
 こんにちは、連載「あなたの知らない、英語のリズムとイントネーションの世界」を担当しているサラです。連載もこの記事で第3回となりました。
今回の第3回は、イントネーションについて。英語学習者なら一度はモヤッとしたであろう、イントネーションの疑問について掘り下げます。

 ◇WH疑問文は本当に「下がり調子」で読まれる?

 この記事を読んでいる方なら、学校の英語の授業などで「WH疑問文は下がり調子で読まれる」と習ったことがあると思います。たしかに、what, when, where, who, which, how などで始まるWH疑問文は「下降調」(=下がり調子)で読まれることが多いと言えます。しかし、実際の日常会話で、WH疑問文が「上昇調」(=上がり調子)で読まれていることを耳にしたことはありませんか?
 
 例えば、When did you arrive?「いつ到着したの?」という文があったとします。以下音源1のように「下降調」で読まなければならない、と感じている人もいるかもしれませんが、音源2のように「上昇調」で読まれることがあります。1と2はどのようなニュアンスの違いがあるのでしょうか?

1と2の音声(←音声はこちらから視聴可能です。)

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  ▼1と2の音声視聴URL  ↓ 
https://drive.google.com/file/d/1m6d2ehKs7ICUm_KOkrXM4O0MWxU4XJbs/view?usp=sharing

◇WH疑問文に「下降調」が使われるときのニュアンス

 WH疑問文を1のように「下降調」で読むのは、最も一般的な読み方で、冷静な印象を与えます。状況によっては事務的(business-like)なニュアンスにもなります。

◇WH疑問文に「上昇調」が使われるときのニュアンス

 一方、前述の通りWH疑問文は「上昇調」で読まれることもあるのですが、「上昇調」にはイントネーションの世界で「促しの上昇調(encouraging rise)」と呼ばれている重要な用法があります。2のようにarriveで「上昇調」を使うと、会話の継続を促す感じが出ます。When did you arrive? と質問した後、「空港からのタクシーは快適だった?ホテルには無事チェックインできた?...」のような感じで自然に会話を続けることを促します。
 
 また、WH疑問文を2のように「上昇調」で読むと「より優しい」「親切な」「共感的な」「敬意を持っている」といった感じを生む効果があります。やわらかな印象を与えたり、断定的な口調をやわらげることもできるため、簡単にいえば「愛想のよい」感じが出ます。この記事ではこのような「上昇調」を「会話を促す愛想のいい上昇調」と呼びたいと思います。

◇What’s your name?  下降調 vs 上昇調

 さて、もう一つ、別の例を使ってWH疑問文における「下降調」vs「上昇調」のニュアンスの違いを考えてみましょう。例えば、以下の3, 4を比較してみましょう。3ではふつうの「下降調」が使われており、4では「会話を促す愛想のいい上昇調」が使われています。

3と4の音声(←音声はこちらから視聴可能です。)

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▼3と4の音声視聴URL  ↓
https://drive.google.com/file/d/11IZhAS7g3G2u7Wn8Kgz-gBDue5LeQSch/view?usp=sharing

 3のようにnameを「下降調」で言えば冷静な印象になります。「事務的」な状況では「下降調」がピッタリなので、例えば役所の職員が淡々と名前を尋ねるときは「下降調」が使われることが多いでしょう。しかし、状況によっては、「ぶっきらぼう」に聞こえることや、「尋問」している感じにもなってしまうかもしれません。
 
 一方、4のようにnameを「会話を促す愛想のいい上昇調」で言えばやわらかい感じで会話を促す感じになります。はじめて会う人に向かって丁寧に名前を聞きたい場合、このようなイントネーションが使われることがよくあります。なお、大人が子どもに話しかけるときにもこのような「上昇調」はよく使われます。

◇WH疑問文で「上昇調」は実際どのくらい使われているの?

 ここまで、WH疑問文で「上昇調」が使われることもある、とお話ししてきましたが、実際どのくらい「上昇調」が使われるのでしょう?
 
 渡辺和幸著『英語のリズム・イントネーションの指導』(大修館書店)によると、映画・ドラマを対象とした同著者の調査では、WH疑問文1,593例のうち、「上昇調」はイギリス英語では10.6%、アメリカ英語では6.5%という結果になったことを紹介しています。「下降調」が圧倒的に多いものの、「上昇調」も使われていることもあることが分かります。
 
 この結果を見て、「少ない」と感じた方も多いかもしれません。しかし、実際にWH疑問文に「上昇調」が使われているケースはふつうに聞くので、ニュアンスの違いはぜひ整理しておきたい事項だと思います。

◇「命令文」での「上昇調」

 ちなみに、このような会話の継続を促すような「上昇調」は「WH疑問文」以外にも「命令文」など他の文タイプで使われることがあります。次の英文5, 6のBに注目してみてください。

5Bと6Bの音声(←音声はこちらから視聴可能です。)

■5
A: Can I ask you a question?     質問してもいいですか?

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▼5Bと6Bの音声視聴URL  ↓
https://drive.google.com/file/d/14UYa2epOVt84jbncnn_LFiMfrtY8BzAX/view?usp=sharing

■6
A: I have some good news for you.   いい知らせがあるよ。

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▼5Bと6Bの音声視聴URL ↓
https://drive.google.com/file/d/14UYa2epOVt84jbncnn_LFiMfrtY8BzAX/view?usp=sharing

 ここまでお読みいただきありがとうございました。次回の第4回記事も、奥が深い英語リズム・イントネーションの世界についてお話しする予定ですのでお楽しみに!

【参考にした書籍】
今回の内容に興味がある人は以下の書籍ものぞいてみましょう。
・Allen, W. S.『Living English Speech』(Longman)
・片山嘉雄・長瀬慶来・上斗晶代『英語音声学の基礎――音変化とプロソディーを中心に』(研究社)
・竹林滋『英語音声学』(研究社)
・渡辺和幸『現代英語のイントネーション』(研究社出版)
・渡辺和幸『英語イントネーション論』(研究社出版)
・渡辺和幸『英語のリズム・イントネーションの指導』(大修館書店)
・Wells, J. C.『English Intonation: An Introduction』(Cambridge University Press)

※本記事ではWH疑問文における上昇調の基本の意味を解説しましたが、細かい補足や注意点については割愛していますので、上記書籍などを参考にしてください。

この記事を書いた人:サラ
オンライン英語スクール「らいひよ®」代表。コロンビア大学大学院卒 英語教授法修士。
コロンビア大学での修士課程修了後、TOEIC・TOEFLなど作成するアメリカ最大のテスト作成機関 Educational Testing Service(ETS)プリンストン本社で問題作成者として勤務。著書『Q&Aサイトから読むアメリカのリアル』(アルク)
アメリカのニュース視聴を日課とし、リアルな英語や文化に触れ続けることを大切にしています。大学院進学前は、バックパック旅に魅了され、世界一周を達成。YouTube「らいおん英語チャンネル」・Xなど運営メディア一覧はこちら。今後ベレ出版を通して、英語のリズム・イントネーションの面白さをみなさんに詳しくお伝えしていく予定ですのでお楽しみに!

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