2025.07.25 著者のコラム 『あなたの知らない、英語のリズムとイントネーションの世界』第4回:成句アクセント編 著者 サラ あなたは「ウィズダム派」?「ジーニアス派」?:辞書の「成句アクセント」はクセ強だった! こんにちは、連載「あなたの知らない、英語のリズムとイントネーションの世界」を担当しているサラです。この連載もついにこの記事で最終回です。今回は、辞書の「成句アクセント」について。 単語レベルではアクセントはしっかり調べているという人も、成句についてはアクセントをほとんど調べていない、という人も多いのではないでしょうか?この記事で、辞書の「成句アクセント」に興味を持つ人が増えれば嬉しいなと思います。 句動詞とは この記事を読んでいる方なら、これまで英単語・熟語帳を1冊は使ったことがあると思います。そのときに、以下のようなフレーズを見かけたことはありませんか? ・stand out 「目立つ、際立つ」・let up 「雨などが止む」・go by 「時が過ぎる」・set in 「特によくないこと・悪天候・病気などが始まる」・put up with〜 「〜を我慢する」・come down with〜 「〜(風邪などの軽い病気)にかかる」・do away with〜 「〜を廃止する」 例えば、stand outは「目立つ、際立つ」という意味ですが、standという「動詞」と、outという「副詞」が結びついてできています。このように、基本的な動詞が副詞や前置詞などと結びつき、1つの動詞のような意味を持つものを「句動詞」(phrasal verb)と言います。「群動詞」(group verb)と呼ばれることもありますがこの記事では「句動詞」と呼びます。 日常のあらゆる場面で不可欠な句動詞 句動詞は日常のあらゆる場面で非常によく使われる動詞で、句動詞なしにスピーキング、特に会話表現を語ることはできません。母語話者は句動詞を好んで使うものの、学習者は使用を避ける傾向があると言われており、中田達也著『英語は決まり文句が8割』(講談社)では、句動詞がない言語を母語とする学習者(日本語母語話者も含む)の多くは句動詞を苦手としていることを指摘しています。 また、同書では母語話者が句動詞を好んで使う傾向について、一般的なテキストでは、約150語に1回の割合で句動詞が使用されているという推計があることを紹介しています。平均的な英語書籍は1ページあたり300語前後であるため、1ページに句動詞が2回出てくる計算です。ちなみに、英語の句動詞は非常に数が多く、その数は8,000に迫るという説もあるそうです。 多くの学習者が知らない「句動詞の読み方」 句動詞は、このように非常に重要なのですが、「どこを強く目立たせて読むか」という「アクセント位置」に関してほとんど気を配っていない学習者も見受けられる印象です。つまり、「句動詞の読み方」を知らない人も多いのです。 最も強く目立って読まれるのはどこ? 次の3つ句動詞は「どこが最も目立って強く読まれるか」を考えながら、声に出して読んでみましょう。なお、今日は「文レベル」でなく、辞書に載っているような「フレーズレベル」でアクセントを考えます。 1 put up with〜 「〜を我慢する」2 come down with〜 「〜(風邪などの軽い病気)にかかる」3 do away with〜 「〜を廃止する」 いかがでしょうか?簡単だと感じた人も、難しいと感じた人もいると思いますが、これまで句動詞を苦手に感じていた人もご安心ください。実は句動詞のアクセント位置は辞書で調べられるので、この記事で調べ方を簡単に紹介します。※1 ※1:句動詞はいくつかのパターンがあり、語順や使い方など注意すべきことが他にもたくさんありますが、この記事では割愛し、アクセントに絞ってお話しています。 「副詞」が最も強く目立って読まれる 上記3つは全て「動詞+副詞+前置詞」で構成されているタイプの句動詞で、私はこのタイプを「put UP with型」の句動詞と読んでいますが、「副詞」upが最も強く目立って読まれます。 ▼1〜3の音声(←音声はこちらから視聴可能です。) ▼1〜3の音声視聴URL ↓https://drive.google.com/file/d/16UwDnb_P6MaindMMlOgcmBuJ7dYHCItH/view 辞書でアクセントを確認 次に、辞書で実際にこれら3つの句動詞のアクセントを確認してみましょう。学習者向けの「英和辞典」や「英英辞典」の多くは句動詞のアクセントが表記されています。例えば、『ウィズダム英和辞典第4版』でput up with, come down with, do away withを引くと以下のように載っています。 1 pùt úp with A2 còme dówn with A3 dò awáy with A 第1アクセントは「́ 」で、第2アクセントは「 ` 」で示されています。最も目立って読まれるのが第1アクセントで、それぞれ「副詞」のup, down, -wayに第1アクセントがあるのが分かります。このように、句動詞のアクセントは辞書で簡単に確認することができますので、句動詞を調べるときは意味だけでなくアクセント位置まで必ず調べるようにしましょう。※2 ※2:アクセントは「強勢」ともいいますが、この記事ではアクセントと呼びます。 アクセント表記は辞書によって違うことがあるので注意 ところで、第1アクセント「́ 」や第2アクセント「 ` 」の表記のしかたは、辞書によって異なることがあるのはご存知ですか?このことを知らないとアクセント位置を勘違いしてしまうことがあるかもしれないので注意が必要です。例えば、以下2つの句動詞を『ウィズダム英和辞典第4版』と『ジーニアス英和辞典第6版』で比べてみましょう。 4 stand out 「目立つ、際立つ」5 set in 「特によくないこと・悪天候・病気などが始まる」 ウィズダム式:第1アクセント「́ 」は1つだけ まず『ウィズダム英和辞典第4版』です。私は生徒さんに「句動詞のアクセントを調べるときはウィズダム英和辞典第4版が見やすいですよ」と伝えています。ウィズダムでは以下のような表記です。 ▼4と5の音声(←音声はこちらから視聴可能です。) 4 stànd óut5 sèt ín ウィズダムでは、第1アクセントの記号の「́ 」に注目すればOKです。4, 5で「́ 」が付いているのは「副詞」ですが、「副詞」を最も目立たせて読めばいいことが直感的に分かりやすいと思います。 ▼4と5の音声視聴URL ↓https://drive.google.com/file/d/1CoG0yRmkrxYrsl7rgYbhrvPQBtdJgm2C/view?usp=sharing ジーニアス式:第1アクセント「́ 」が2つあることも 一方、『ジーニアス英和辞典第6版』では以下のような表記です。 4 stánd óut5 sét ín ジーニアスでは、このように第1アクセント「́ 」の記号が2つ付いていることが分かります。どちらも強く読む必要があることは見てとれますが、「どちらをより目立たせて読めばよいか」は慣れていない人には分かりづらい表記になっています。 ジーニアスとウィズダムの表記の違いは単なる「流派の違い」であって、ジーニアスが「間違い」というわけではありません。つまり、4, 5はやはり「副詞」のout, inを最も目立たせて読めばいいのです。しかし、ジーニアスの表記の例えば4 stánd óutを見たときに、standでなくoutの方が「核」となってより目立つ、という事実が直感的に分かりづらいと感じる人も多いのは確かだと思います。 ジーニアス式の説明 なぜジーニアスではこのような表記がされているのでしょうか?実は、このように第1アクセント「́ 」が複数ある場合、以下のように解釈する必要があります。 第1アクセント「́ 」が複数ある場合、一番最後の「́ 」を最も目立たせる 第1アクセント「́ 」が複数ある場合、最後の「́ 」がある場所で最も急激なイントネーション変化がある「核」となるため、最後の「́ 」が最も目立って読まれるのです。その証拠に、『ジーニアス英和辞典第6版』の「発音記号表への注」というセクションでは以下のような補足説明があります。 1つの複合語や句動詞・成句などに複数の第1強勢がある場合、… 聴覚的には、通例最後の第1強勢がある音節が最も際立って聞こえる。…その音節にイントネーションの「核(nucleus)」が置かれ、音の高さが急激に変化するからである。 *本記事の読者が理解しやすいように一部省略して引用 しかし、このルールを知らない学習者も多いと思いますので、「まずはウィズダム式で慣れる」のがいいかもしれません。 ウィズダム式の辞書とジーニアス式の辞書 ちなみにウィズダムのように、1つのフレーズの中で「1つだけ第1アクセントを認める」タイプの辞書は『Oxford Advanced Learner’s Dictionary第10版』など他にもあります。 一方、ジーニアスのように、1つのフレーズの中で「複数の第1アクセントを認める」タイプの辞書は『コンパスローズ英和辞典』『新英和大辞典第6版』『ライトハウス英和辞典第7版』など他にもあります。ぜひお手持ちの辞書の表記を確認してみましょう。 ここまでお読みいただきありがとうございました。この記事を通して句動詞のアクセントをこれから注意していこうと思っていただけたら幸いです。 この記事を書いた人:サラオンライン英語スクール「らいひよ®」代表。コロンビア大学大学院卒 英語教授法修士。コロンビア大学での修士課程修了後、TOEIC・TOEFLなど作成するアメリカ最大のテスト作成機関 Educational Testing Service(ETS)プリンストン本社で問題作成者として勤務。著書『Q&Aサイトから読むアメリカのリアル』(アルク) アメリカのニュース視聴を日課とし、リアルな英語や文化に触れ続けることを大切にしています。大学院進学前は、バックパック旅に魅了され、世界一周を達成。YouTube「らいおん英語チャンネル」・Xなど運営メディア一覧はこちら。今後ベレ出版を通して、英語のリズム・イントネーションの面白さをみなさんに詳しくお伝えしていく予定ですのでお楽しみに!