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  • 著者のコラム

日記を書いて身につけるイタリア語
張あさ子

写真:日記を書いて身につけるイタリア語

まずは告白しなければいけません。この本のお話を受けたときに、私はイタリア語できちんと日記をつけて… いませんでした! ですから、このタイトルで1冊書くことにはかなり勇気が要りました。もちろん仕事柄、イタリア語には日々触れていますが、「イタリア語で日記を書く」習慣は正直なかったからです。それならば隗より始めよ。身をもった体験なしに本を書くことはできないと思い、日々の出来事や感情をイタリア語で書きとめることを意識し始め、はや1年半ほど経ちました。正確には、以前から時々つけていた自分の雑記帳を活用し、これになるべくイタリア語で毎日書きこむことにしたのです。もともとこの雑記帳は、物忘れのひどい自分に危機感を覚え、備忘録としてつけはじめたものです。心に残ったこと、新しく覚えたことば、人と話した内容の覚書、固有名詞など、ジャンルを問わずになんでも書いていました。何か感じたことや、対人関係において重要なことはすぐにメモをとり、ためておいて、時間があるときにこれらのメモを雑記帳にまとめていました。このノートを振り返ると自分の思考があちこちにさまよっていることが観察できます。「自分はこのことばに興味を持ったんだな」、「友人の太った飼い猫の名前はこうだったな」、「そうそう、この日はひどい雷で家を出るのをためらったっけ」など、情景とともに自分の気持ちもよみがえってくる感覚があります。覚書として書き散らしたことばも、ある時にふと振り返ると、そのことばたちが立体的になるというか、まるで自分用にカスタマイズされるようで愛着がわくものです。私にとって、この雑記帳がイタリア語日記の出発点となりました。

さて、自ら積極的にイタリア語をまぜて雑記帳をつけ始めると、気づいたことがたくさんあります。まずイタリア語そのものに関しては、学習のアプローチが確実に広がることが実感できます。具体的には、語彙が増えること、読んだり聴いたりするときに注意するポイントが広がること、ずばりの単語がでてこなくても平易な単語をやりくりして言いたいことを表わすコツをつかんでくること、などです。イタリア語で文章を書くには、参考書や辞書に掲載された文例を応用する方法もありますが、基本的にはゼロから考え主体的に文を構築していくアクティブなアプローチが必要です。いざ書き始めると、新しい単語を探し、読んだり聞いたりするだけでは気づかなかった文法の注意点に気づき、あ、こんな言い方もある、こっちのほうが自分の気持ちにぴったりあっているかな、などと手探りで1文1文作っていく地味な作業に没頭する自分がいて、とてもおもしろいと感じました。

もうひとつ、身をもって感じたことのなかからお伝えしたいのは、日々積み重ねることでつかみはじめる何かポジティブな感覚です。恐らくこれは、イタリア語日記に限ったことではなく、たとえば水周りを毎日掃除するとか、5分でも体操するとか、新聞をきっちり読むでも何でもよいのだと思います。何かを自分に毎日課していく生活は、まるっきり負荷のない生活よりもささやかな達成感を味わうことができるのではないでしょうか。ほんとうによいほうに変わりたいと思ったら、結局のところ日々の積み重ねでしか変えることはできないのだと考えます。とはいえ、「何事も毎日やればいいのだろうけれど、なかなかねぇ…」というのが世間一般の見方かもしれません。ですから、日記に関しても、力まずに今日できる範囲でよしとすることをお勧めしています。たとえ単語ひとつであれ、1行であれ、明日も明後日もずっと続けていくことで、1本筋の通るようなポジティブな感覚を必ず味わうことができると思います。

このようにして、自分の雑記帳から出発した試行錯誤のなかで、イタリア語で日記を書くことに焦点をあてたのが本書です。語学は地道な作業の積み重ね、長い時間がかかるものです。上達や結果を焦るのではなく、自分とことばとの対話の時間をじっくり持ってこそ、楽しさや幸せを感じることができると思います。

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