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  • 著者のコラム

映画と語学 2

著者 曽根田憲三(アメリカ映画研究者・シナリオ翻訳家)

映画からこんなことが学べる

前回のコラムで、映画から描かれている人物の役柄や場面などに最もふさわしい表現が学べると書きました。

そのため、ある特定のシーンで使われた表現が私たちにとってなじみのないものであったとしても、状況などから判断して、その意味合いをつかむことができるはずです。

たとえば、学園もので美しい女主人公がダサイ男と話していたとしましょう。その男が去った後、近づいてきてIs he your boyfriend?と話しかけてきた友人に、彼女は即座にAs if!と返します。これまで学習してきたこの表現は「まるで~のように」を意味していましたが、ここにそれを当てはめたらチンプンカンプンな対話になってしまいますね。

彼女の即答した様子やそのセリフを発したときの表情に注目すれば「まさか」とか「そんなわけないじゃない」という意味合いだろうと推測できるはずです。

人の顔のコラージュ

そう、日常会話で若者が使うAs if!No way!とかNo chance!と同じく、相手の言ったことを否定する表現なのです。

もう一つ例を挙げましょう。レストランでの食事中、料理に異物が入っていることに気づいて、ウエイターに注意したとしましょう。すると食後、注文してもいないコーヒーがOn the house.ということばとともに運ばれてきたではありませんか。

この表現は店の不手際やミスがあったときなどに伴うサービスで使われるIt’s free.(タダです)の意を表す決まり文句で、Compliments of the house.と同じもの。

もしこのような場面に遭遇し、初めてOn the house.なる表現を耳にしたとしても、その経緯から、きっとあなたは意味を解して、にっこり微笑み、Thank you.と言うでしょう。

レストランのサーバー

こうした生活に密着した表現は、このような体験を通して初めて確実に頭にインプットされるわけですが、映画は私たちに苦い体験をさせることなく、それらを間接的に、であるがゆえに安全に教えてくれる魔法のツールということができるかも知れません。

ちなみに、On the house.の前置詞、ここでのonは「~の表面に、~に接して」ではなく、「~の不利益となって、~に損害をかけて」の意味で、On the house.は文字通りには「店側の負担で」ということになります。どこかの本でShe hung up on me.を「彼女は電話を切った」と訳していましたが、正しくは「彼女に電話を切られちゃった」でなければいけないことがわかりますね。


記事を書いた人:曽根田憲三(そねだ けんぞう)
立教大学大学院修了。相模女子大学名誉教授。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)客員研究員(1994、1997、2000)。映画英語教育学会元会長、アメリカ映画文化学会名誉会長、映画英語アカデミー学会名誉会長。映画を使った文科省検定高校英語教科書を初め、シナリオを利用した大学用テキスト、アメリカ映画シナリオ翻訳本、アメリカ映画・小説に関する研究書、実用英語本など、出版した書籍は170冊を超える。

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