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  • 編集部コラム

高熱隧道

先日、富山県の黒部峡谷鉄道の終点・欅平駅と黒部ダムを結ぶ「黒部ルート」が一般開放されるというニュースがありました。「黒部ルート」は発電施設建設・維持のために造られた工事用輸送路で、現在は関西電力が管理しています。ほぼ全区間がトンネルで、昭和11年に工事が始まりました。しかし、この工事区域は北アルプスの最深部にあたり、谷は深く急峻を極め、「猿やカモシカなどの野生動物も辿ることはできない地域」。工事開始当初から資材運搬中の転落事故が相次ぎ、遺体回収もままならない状況でした。そのうえ、仙人谷~阿曽原の第一工区トンネルは、掘れば掘るほど坑内温度が上昇し、岩盤温度は摂氏166度にまで達しました。人夫たちは後ろから冷水を浴びせられながら作業を続けましたが、熱中症で失神したり、岩盤から噴き出した熱湯で大やけどを負ったり、果ては熱でダイナマイトが自然発火して暴発事故に巻き込まれたりと困難を極めました。さらに謎の雪崩によって、鉄筋コンクリートの宿舎が吹き飛ばされ、最終的にはこの工事で300名余りが犠牲になりました。こんなにも多くの犠牲を払ってでも工事が進められた背景には、戦争が泥沼化していく中で国策としての意味合いがあったようです。この難工事の様子は『高熱隧道』(吉村昭)に詳しく描かれています。私は毎年のように北アルプスに登山に行きますが、「立山黒部アルペンルート」をよく使います。こちらも戦後、黒部ダム建設のために開かれたルートです。「黒部の太陽」で知られるとおり、ダム竣工までに171名もの犠牲者を出しました。こうしたルートが時を経て観光ルートとして利用されるようになったわけですが、尊い命の犠牲の上に造られたことを忘れずにいたいと思います。

モリ

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