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「紙の本が好き」が揺らぐ

 このコラムでも自身の担当回ではたびたび「紙の本」にこだわった内容をお届けすることがありました。本にはカバー、表紙、見返し、本文それぞれのパーツに様々な銘柄の用紙があって……というような。

 書店にお勤めの方の中には第169回芥川賞受賞の『ハンチバック』(市川沙央)を読まれた方も多いと思います。作者の市川さんは「筋疾患先天性ミオパチーにより症候性側弯症を罹患し、人工呼吸器と電動車椅子を常用する」(Wikipediaより)方で、この作品はご本人のような境遇の人物の話を中心に展開していきます。その人が読書について語るくだりで次のような描写がありました。

私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、――(中略)その特権性に気づかない「本好き」たちの無知な傲慢さを憎んでいた。

 ストレートパンチを顔の正面にふいに食らって頭がクラクラするような。「本はやっぱり紙だよね」とかわかったふうに言ってきた自分の浅はかさを強烈に思い知らされた一節でした。それからというもの、地下鉄の窓にうつる、本を広げた自分の姿にも、今までと違う何かを感じるようになりました。サリンジャーやハン・ガンに浸れるのは紙の本だからなのだろうか。違う形で出会ったとしても同じように愛することになったのだろうか。これまでだったら疑いもなく「同じではない」と言ってきたことでしょう。しかし今では「同じかもしれない、いや同じだ」と思うようになってきたのです。でも一方で、紙の本を愛する気持ちを捨て去らなければならないことにはならない、とも思うのでした。

 このような気づきを与えてくれたこの作品はさらに自分に、「物語の創作は脳みそ一つで自由に無限にできるんだ」ということを見せつけてくれたのでした。本ってやっぱりいいものですね。どんな形でも。

バンドウ

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