書籍詳細

独学する「解析力学」
独学者の「学びやすさ」にこだわった解析力学入門

独学する「解析力学」
著者名
近藤龍一
ISBN
978-4-86064-665-3
ページ数
551ページ
サイズ
A5判 並製
価格
定価2,860円 (本体2,600円+税10%)
発売日
2021年08月26日発売

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内容紹介

物理自身を物理の道具として使うこともあります。その最たる例が、この「解析力学」と言えます。解析力学が明らかにした古典力学の定式化の方法である「最小作用の原理」は、マクロでもミクロでも、物理の全範囲にわたって共通であり、現在までのところ、物理学最大の指導原理と言っても過言ではありません。したがって、未知の領域において基礎方程式を導出するための強力な手段となりえるのです。この、物理の数ある分野の中でも応用範囲が随一に広いと言える「解析力学」を理解するのは非常に困難なものですが、独学によってこれを習得し、読者の“わからなさ”を理解している著者が、独学する読者のために数式も極力端折らず最後まで丁寧に解説していきます。

著者コメント

(「序文」より)

 「力学の書物はすでにいくつも存在しているが,本書のプランはまったく新しいものである。私はこの科学の理論およびそれと関連した諸問題を解く技術を,一般公式に,つまりその公式を単に発展させるだけでそれぞれの問題を解くために必要な方程式が全て得られるような一般公式に還元することを提唱する。…(中略)… 本書で私が説明に用いた方法は,作図や幾何学的ないし機械論的な議論を必要とせず,もっぱら規則的で画一的に進められる代数的操作に限られる。解析学を愛好する人々は,力学がその一分野になったことを好意的に見,私がこのようにして解析学の領土を押し拡げたことについて私の労をねぎらっていただけるであろう。」

 以上の文章は,解析力学の創始者であるジョゼフ・ルイ・ラグランジュが1788 年に,力学研究の集大成として出版した『解析力学』(Mécanique Analytique)の「緒言」に記した文章の一部である。
 アイザック・ニュートンは有名な『プリンキピア』で力学の基礎を確立したが,その内容は現代から見ても難解であり,当時からすればなおさら難しかった。というのも,ニュートン自身が微積分法を発明しておきながら自著ではそれを使わず,極限の幾何学を使い続けたからである。ニュートンとライプニッツによって独立に確立された微積分法は後の数学者によって解析学という新しい分野に取り込まれたが,解析学の発展に寄与した何人かの数学者によって,力学こそ解析学によって記述されるべきであると考えられるようになった。
 例えば,18 世紀最大の数学者レオンハルト・オイラーは,著書の中で次のように警告している。
 「たとえ〔『プリンキピア』の〕読者がそこで提示されている事柄の正しさを確信したとしても,彼はその事柄について十分に明晰な知識を得ることができないであろう。それゆえ,もしも同じ問題がわずかに変えられたならば,自分で解析学にたより,同じ命題を解析的な方法で展開してみないかぎり,それらを自力で解くことはできないであろう。」
 これは『プリンキピア』の方法は正しいが,とても一般の学生に教授できるものではないという主張であり,オイラーはこのままでは科学の発展は見込めないと危惧していたのである。やはりどのような学問分野であれ,それを理解し利用することのできる人数を増やし,その分野の楽しさや醍醐味を伝えていかないことには,その分野は衰退の一途を辿るであろう(これは現代における啓蒙書・入門書の存在意義でもある)。
 こうして,オイラーらによって『プリンキピア』の内容が次々と解析化されていく流れの中で登場したのがラグランジュであった。彼の偉大な業績はニュートン力学の書き直しにとどまらず,冒頭の引用文の通り力学問題を一般公式へ還元したということにある。エルンスト・マッハによる「ラグランジュは,必要な全ての考察を一度で処理し,一つの公式でできるだけ多くのことを表現するように工夫している。…(中略)… ラグランジュの力学は思考の経済に関するりっぱな業績である。」という評価はこのことをよく表している。
 このようにニュートン力学を解析学によって一般化し,他の様々な分野にも同じ手法を適用可能にした理論を解析力学という。解析力学は力学を一般化するために生み出されたのであるが,その誕生の背景には力学を分かりやすく,誰にでも理解・教授可能なものにするという理念があったのである。
 それではラグランジュの『解析力学』から 2 世紀以上が経過した現在,解析力学が学生の間でどのような扱いを受けているかというと,次の通りである。

 「解析力学というのは,物理の学部専門課程の中で,最も理解しづらいものの一つではないかと思う。ラグランジュ関数(ラグランジアン)というわけのわからないものが出てきて,それがなぜか T (運動エネルギー)- U (位置エネルギー)というものであり,そこからさらにハミルトニアンという,やっぱり良くわからないものを作るというわけで,最初から最後までわからない人がほとんどというのが実情である」
長沼伸一郎『物理数学の直観的方法』

 「大学二年生の時,私は「力学Ⅱ」という授業で解析力学を勉強したはずなのだ…(中略)… しかし,…その時点ではまったく,解析力学がわかってなかった。…じゃあいつわかったのかというと,…大学院で量子場の理論を勉強し…ている間に解析力学を勉強し直したところでやっと「あ,こういうことをやってたのか」とわかった。つまり量子力学まで行ってから戻ってこないとわからなかった」
前野昌弘『よくわかる解析力学』

 ラグランジュの時代から何百年も経って扱われる範囲や内容が拡大したとは言え,お世辞にも学びやすい科目であるとは思われていないようで,当初の創始者の意図とは真逆の結果になってしまっていることは残念でならない。
 私は既に解析力学については学び終えているという自負があるが,初めはやはり,応用範囲は物理の分野の中で随一に広いにもかかわらず,数学的側面が強く,抽象的でハードルの高い物理という印象であった。そこで,私の独学の経験をもとに,高校で学ぶ程度の数学・物理の基礎のみを前提とした,読者が独学で学べる,易しい解析力学の入門書を書くという構想を立て,これをいつか実現したいと考えてきた。こうした考えのもとに完成したのが本書である。

 本書は独学で解析力学の基礎をマスターするための本となっている。本書の記述に際しては私自身が課したルールがいくつかあり,それが本書の特徴に直結しているのでここで紹介しておきたい。
 まず,本書は途中式を省略していない。どのレベルから省略でどのレベルから省略しないのかということについて一義的に説明するのは難しいが,例えば y =2 x³ を x で微分せよというものであれば,いきなり y´= 6x² とするのではなく, y´=3×2x³⁻¹=6x² と書くというくらいのレベルで省略をしていない。
 このような調子であるから,本書の記述は有識者がご覧になればくどく冗長なものと思われることであろうし,実際詳し過ぎのような箇所もあるが,私は入門書というのは本来詳し過ぎくらいがちょうど良いのではないかと考えている。これによって,式の導出が理解できないなどの不安に苛まれることなく,その内容をじっくり考える余裕が持てるはずである。
 最近では丁寧で分かりやすい参考書も増えてきているので,独学しやすい環境のような気もするが,上述のようなレベルで途中式の省略がなく,本書の範囲をカバーした解析力学の本は和書では存在しなかったと言って良いのではないだろうか(執筆後に知ったのだが,海外には私の考えに似た参考書として,Jakob Schwichtenberg『No-Nonsense Classical Mechanics: A Student-Friendly Introduction』(No-Nonsense Books,2019.5)がある)。
 次に,本書では最初から最後まで同じ丁寧さを貫き,記述ができるだけ天下りにならないよう注意した。専門的な本では,最初は平易であるのに,途中から急に難解になって多くの読者が挫折するということが(分野を問わず)起こり得る。本書はこのようなことにならないよう,重要な式ほど説明には十分紙面を割き,導出や説明はなるべく飛躍なく行なうと決め,これを最後のページまで守ったつもりである。
 そして,本書では解析力学を学ぶ目的意識を I 章で明確にさせ,VI 章とVII 章では V 章までに学んだ結果が量子力学や電磁気学に応用されることを示し,解析力学を学ぼうとする読者のモチベーションを上げつつ,ハードルを下げることを試みた。
 他にもごく一部を除き,出てくる式には必ず(厳密さの程度は場合によって異なるが)導出をつけ,重要な方程式については 1 通りだけでなく 2 通りや 3 通りの導出を与える,前提とする知識は高校数学と高校物理のみとするなど,様々な工夫を施している。また,VII 章以外の全ての章には章末問題が付けてある。いずれも平易な問題や,有名な問題ばかりであるので,初心者の方はできるだけ取り組んでいただきたい。
 本書では比較的広い範囲をカバーしたことと(本書で扱う内容については目次や「本書を読むにあたって」を参照していただきたい),途中式や説明を省略しなかったためにこのような大部の本が出来上がってしまったが,本書を読み終える頃には最小限の準備で,「数式レベルを独力で理解し,自分の言葉で説明できる」という感覚を持っていただけるのではないかと考えている。
本書を踏み台としてより高度な文献へ進み,広大な物理の世界を楽しんでいただくことを念願してやまない。

著者プロフィール

近藤龍一(こんどう りゅういち)

2001年生まれ。2018年孫正義育英財団2期生に選出。翌年より正会員。2020年から自由な研究時間を確保するため英国Open University, School of Physical Sciencesに在学。専攻は理論物理学。現在の研究テーマはフレーバー物理学, 余剰次元など。著書に『12歳の少年が書いた 量子力学の教科書』(ベレ出版、2017年)がある。

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