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怪談はなぜ夏に語られるのか?-百物語と私の体験から-

 夏にはホラー映画が公開されたり、テレビで心霊特集が組まれたりと、日本の夏は「怪談の季節」といってもいいでしょう。暑い日には、怖い話でゾッとして涼しくなる……そんなふうによく言われますが、実はそれは俗説のようです。民俗学者の折口信夫は、夏に怪談が語られるようになったのは、江戸時代に歌舞伎で「涼み芝居」として幽霊の出る演目が上演されるようになったからだと述べています。『東海道四谷怪談』などがその代表ですね。そして折口は、そうした夏の歌舞伎がもともと農村で行われていた「盆狂言」の伝統を受け継いでいるとも指摘しています。

 そんな怪談文化の中でも、「百物語」は特に有名なものです。怪談を100話語り終えると、本物の物の怪が現れるとされる儀式。その起源ははっきりしませんが、武士たちの【肝試し】から始まったという説があります。その説によると、武家社会で主君に仕える者たちが夜に集まり、自分たちの勇気を試すために怪談を語り合い、恐怖に耐える遊びとして発展したそうです。これにより室町時代から続く怪談文学の伝統が江戸時代に一大ブームとなったとも言われています。

せっかくなので私の心霊体験をひとつ。4年前の夏、埼玉の秩父にある山奥の廃村を訪れた時のことです。廃村には人の気配はまったくないのですが、かつて人が暮らしていた生活の跡がはっきりと残る廃墟でした。静かにたたずむだけで、どこか寒気がする空間です。そんな不気味な体験の後、近くにある鍾乳洞へ早朝に足を運びました。洞窟の中を歩いていると、突然、小さな子供の声や走る足音が聞こえてきたのです。最初は観光客の声だと思い気にしませんでした。しかし、鍾乳洞の出口で受付の方に「今日はあなたが一番乗りで、ほかには誰もいなかったから洞窟を独占できてよかったね」と言われ、背筋が凍りました。確かに鍾乳洞では誰一人として見かけなかったのです。それならば、洞窟の中で聞こえた子供の声や足音はいったい誰のものだったのでしょうか…?廃村の幽霊が憑いてきてしまったのですかね…。

ミシマ

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