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モナ・リザのニスを剝ぐ

フランスの匂い、パリの匂いのするものが大好物です。文学でいうと、最近のものではパトリック・モディアノ、ミッシェル・ウェルベックは読み漁りました。特に“良くも悪くも”な現代のフランス、パリを感じられるウェルベックは最高でもあり最低(良くも悪くも…)でもあります。彼以来、現代のフランス人作家をそれほど追っていなかった中、久しぶりに出会ったのが『モナ・リザのニスを剝ぐ』(ポール・サン・ブリス)でした。大好きだった『パリ左岸のピアノ工房』の新潮クレスト・ブックスから登場した“スキャンダラスな”一冊です。1983年生まれの作家は本書がデビュー作で、既に本国において数多くの賞を受賞しています。

ルーヴル美術館の絵画部門ディレクターを務める人物を中心に《モナ・リザ》の修復をめぐる物語があらゆる角度から展開されていきます。民間出身でビジネスセンスに長けた新しい館長からこの絵画の修復を求められ、主人公が苦悩するところから始まっていくのですが、リアリティのある話の展開は、現実に起こったことをなぞっているのではないかと思えてくるほどです。

実際に、絵画の修復は様々な作品に施されてきています。つい最近に修復された有名な作品に、ドラクロワの《民衆を導く自由の女神》があります(ルーヴル美術館蔵)。2023年から2024年にかけて6か月の期間で行なわれ、過去の修復の際に塗り重ねられていたニスを取り除くことなどによって色は鮮やかによみがえり、今まで見えていなかった描写まで詳らかになりました。この作品は1830年の製作ですが、《モナ・リザ》の製作は1503年から1519年頃とされています。ドラクロワの有名な作品からさらに300年も遡った時代のものなのです。全地球上で最も有名であると言えるこの絵画に触れることは簡単なことではありません。失敗は絶対に許されないのです。

物語ではパンデミックの影響などから営業的に持ち直すための起爆剤としてル・ジョコンド(フランスでの呼び名)の修復実現に突き進みます。誰が修復をするのか、展示できない期間はどうするのか、世論をどのように味方につけていくのか、など課題は山積です。さらに修復計画の公表をきっかけに、レオナルドの故郷イタリア国内では「私たちの作品に触れるな」と批判が巻き起こり、絵画の返還を求めて大規模なデモに発展します。国と国の問題も絡んでくるのです。

いつかこの(フランスとイタリアだけではない)人類共有の宝が、現実に修復される日はくるのでしょうか。その時、ラ・ジョコンドはどのような色を我々に見せてくれるのでしょうか。物語を超えて想像は膨らんでいきます。壮大なテーマを緻密に描いてくれたこの作家さんの次の作品が今から楽しみです。

バンドウ

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