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学んでみると生態学はおもしろい
伊勢武史

写真:学んでみると生態学はおもしろい

学んでみると生態学はおもしろい−これは今回出版された本のタイトルであり、私から読者のみなさんへのメッセージでもあります。生態学は、自然や環境についての知識の宝庫です。私たちの身近に暮らす動物や植物の暮らしぶりを考える学問であるだけでなく、地球環境を守る「エコ」のために必要な考え方を教えてくれるのです。それもそのはず、「エコ」の語源の「エコロジー」とは、生態学のことだからです。

私自身の経験でもありますが、生態学を学ぶにつれて目からウロコが落ちることが多々あります。身の回りの自然を見る視点が変わります。さらには、動物の一種でもある私たち人間の生き方について考えるきっかけにもなったりします。こんなふうにおもしろくて奥の深い生態学ですが、大学で本格的に専攻でもしない限り、なかなかきちんと勉強するチャンスに出会わないのが実情です。そこで、『学んでみると生態学はおもしろい』では、自然や環境に興味を持ちながらも、これまで生態学を学ぶ機会の無かったみなさんに向けて、独学で基礎から楽しく学べる情報を提供することにしました。

これまでにも生態学の入門書はありましたが、独学で勉強するには難解なものが多かったように思います。本書ではそのあたりに手を抜かず、徹底的に踏み込んで分かりやすい表現を用いることにこだわりました。その一方で、必要な部分では数学を使って生態学のコンセプトをじっくりと紹介しています。「大学レベルの生態学を中学レベルの数学で理解する」という、少しよくばった目標を立てて書いてみましたので、ぜひ一度、本屋さんで手にとってご覧いただけると幸いです。

「生物進化」と生態学(第2章)

環境のなかでの生物の暮らしぶりを研究するのが生態学です。住んでいる環境に適した特徴を持つものが自然淘汰を生き残って子孫を残していくのが生物進化の原動力ですから、生態学と生物進化には密接な関連があることが分かります。この本では、生物進化のメカニズムをしっかり理解することから生態学を学び始めます。

「ニッチ」という言葉をご存知でしょうか。生物進化や生態学では、ある種の生物が生きていける環境条件のことを表しています。ニッチとは本来「すきま」という意味ですから、その生物に適した「すきま」を見つけられるかどうかで、その生物が生きていけるかどうかが決まることになります。ニッチをキーワードに自然を観察することは、ライオンの暮らしぶりでも高山植物のユニークな形でも、いろいろな生物がなぜそのような生態を持っているかを理解する大きな助けになるでしょう。

「エコ」と生態学(第10章)

生態学からは、地球環境を守る「エコ」についても学べます。この章では、そもそもなぜ環境問題が生じるのかを「共有地の悲劇」という例えを使って考えます。人間には誰しも、自分だけ損をするのはいやだ、という気持ちがあります。これは生物としては当然のことなので、自己犠牲に基づくボランティア精神だけでは環境問題は解決できないことを、この本をここまで読み進んだ方はお気づきになることでしょう。そこで「生態系サービス」というコンセプトを使って、無理せず自然保護を行なうやり方について紹介しています。

「レジ袋をもらわずにマイバッグを使うと、どのくらい環境にやさしいのだろう?」「エコカーに買い換えるとほんとにエコなのかな?」こういう疑問を感じる方も多いと思います。この本ではサイエンスの視点から、私たちの日常生活による環境への負荷をきちんと理解する方法を紹介しています。それには難しい計算は必要ありませんが、客観的にものごとをとらえる視野が大事になってきます。漠然とした「環境にやさしい」という表現だけで満足できない方に、ぜひ読んでいただきたい本です。

フィールドに出てみましょう

「生態学について学ぶとフィールドに出たくなった」「フィールドで発見があるとさらに生態学を学びたくなった」−もし読者のみなさんがこんな感想を持ってくださるなら、私には最高の幸せです。フィールドとは、特別な国立公園などに限りません。私たちが毎日歩いている通勤途中の道端ですら、立派な生態学のフィールドになり得ます。生態学の視点を身に着けたら、ぜひフィールドに出てみましょう。

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