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仕事に活かせる語学力とは[4]

著者 平見尚隆(香川大学 創造工学部教授)

今月、4回にわたり語学学習に関してコラムを連載させていただきました平見です。自動車メーカーに勤めていた私はイギリス、アメリカ、ドイツそしてメキシコと合計13年間ほど海外で暮らした経験があります。現在は香川大学においてエンジニアリングデザイン領域で教鞭をとっています。最終回となる第4回は、「多言語学習の縦割りはなくせるか」についてお話しします。

第4回 多言語学習の縦割りはなくせるか

13年ほど海外で生活してみて、改めて気づいたことがあります。それは当然のことですが、世界の人々は、日々、日本人と同じような生活を送っているということです。

英語と区別される「第二外国語」の不思議

私が住んでいたのはイギリス、アメリカ、ドイツそしてメキシコで、イギリス、アメリカは英語ですが、ドイツはドイツ語、メキシコはスペイン語と、それぞれ異なる言語が話されています。これらの言語は、「第二外国語」などと呼ばれ、英語とは区別して学ぶことが多いと思います。

この「縦割り」不思議ではありませんか。

日々の生活はだいたいどの国でも同じで、朝起きて顔を洗い、歯を磨き、朝食を食べ、学校あるいは仕事場に出かける。それが終われば帰宅して夕飯を食べ、風呂かシャワーで汗を流した後はくつろぎ、眠りにつく、といった具合です。

その間には人とコミュニケーションをとり、嬉しいことがあれば喜びを、つらいことがあれば悲しみを表現します。そう考えると、当然、それぞれの言語に共通した事実やニュアンスを伝える表現方法があるはずなのです。

学生の皆さんは、「第二外国語」と聞くと決まって憂鬱な表情をされます。私が大学で教養教育のスペイン語を担当していた時には、上述のことを意識して、常に英語と対比した説明を心掛けていました。

英語と比較して見えてくるもの

二つほど例を挙げてみましょう。過去の出来事を表す場合、英語は動詞の完了形を除くと過去形しかありませんが、スペイン語では点過去形と線過去形の二種類あります。過去形しかない英語で「~したものだ」ということを表現したければ、used toなどの特殊な慣用表現を使って表現します。

例えば「学生の時は、テニスをしたものだ」と、過去のある継続的習慣を表すのに“I used to play tennis when I was a student.”と言いますね。一方、スペイン語では“Yo jugaba tenis cuando era estudiante.”となります。この場合のjugarはplayに対応します。jugarには主語が一人称単数の場合、点過去形と呼ばれるjuguéと、線過去形のjugabaがありますが、継続性を表すには、線過去形を用いればよいのです。

どうでしょう、意外と単純ではありませんか。細かなルールはありますが基本はそれだけです。

大学時代の著者
Cambridge大学時代の著者(左)/友人の泉本氏とEmmanuel Collegeにて

第二外国語の便利な面を見る

もう一つの例です。スペイン語やフランス語などのラテン語系の言葉は、動詞の人称変化があって難しいという話をよく聞きます。本当にそうでしょうか。先ほどのテニスの例で考えてみましょう。英語の場合、ここでの主語はIですが、その他の単数の主語you,(s)heや複数の主語we,you,theyでも動詞は変化せず、used toのままです。一方、スペイン語ではjugaba,jugabas,jugaba,jugábamos,jugabais,jugabanと変化します。これだけを見ると、スペイン語の勉強が嫌になってしまいそうですが、考えてみてください。伝えたいことは「誰が何をするのか」ということです。英語の場合、主語によって動詞は変化しませんので「誰が」がわかりません。ですから、英語の文章には常に主語をつける必要があります。一方、スペイン語では動詞を見れば主語がほぼ特定できますので、主語は省略することができます。便利ですよね。考えてみると、日本語でも主語を省略することが多いですが、これはどうして可能なのでしょうか。考察してみると面白いと思います。

「縦割り」をなくしていきましょう

このように英語とスペイン語を比較すると、どこかで効率を上げるには、別のところに負荷がかかる、ということがわかります。負荷にばかり目が行きますが、実は別のところで効率が上がっているのです。

冒頭に述べましたように、どの国の言葉でも伝えたいことはほぼ同じです。よく行政が論じられるときに「縦割りはなくすべきだ」と言われますが、本質的な言語習得のために、多言語学習の縦割りもなくしていきたいですね。


記事を書いた人:平見尚隆(ひらみ なおたか)
香川大学 創造工学部教授。広島大学 客員教授。
広島大学附属高校、早稲田大学理工学部卒1986年 早稲田大学工学修士、1994年 ケンブリッジ大学博士号 (Ph.D.) 取得。マツダ株式会社入社後、研究開発に従事。Ford USA本社、Ford Europe、Ford Asia Pacific & Africaでは商品企画業務やそのマネジメントを担当。メキシコにおいてはマツダ関連現地法人の経営も行う。この間、Pennsylvania大学Wharton校にてExecutive Development Programにも参加。これらアメリカ、イギリス、ドイツそしてメキシコにおける海外経験をベースに、現在は大学においてエンジニアリングデザイン領域の教育・研究や国際化推進を担当。Professional Engineer(専門職技師、米国ミシガン州登録)、ケンブリッジ英語検定Proficiency レベル(最上級)、1級ファイナンシャル·プランニング技能士、中小企業診断士などの資格を有す。趣味は野鳥の写真撮影。

著者

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