2026.05.25 NEW 社長コラム 出版は製造業であるべきか 出版業は、日本標準産業分類によると 情報通信業 に分類されます。ですが、ビジネスモデルは製造業に近い、と言われることもあります。情報通信業にはソフトウェアなどが含まれますが、出版業の場合は、物体である書籍を商材として取り扱っており、それを流通させたり、在庫として抱えたりしていますので、その面だけ見れば、いかにも製造業です。 一方で、近年は電子書籍も普及していますが、電子の場合はデータのやり取りで販売が成立し、在庫も存在せず、製造業っぽさはあまりありません。電子書籍は、読む側の体験も紙の本とは異なります。リフロー型といわれる、テキストベースの電子書籍では、フォントや文字色・背景色がユーザー側で変えられます。どこで改行されるかも、画面や文字のサイズに応じて変化します。また、コスト管理も編集者の大事な仕事ですが、これも紙と電子では考え方が大きく異なります。一冊当たりの単価という考えが電子書籍には存在しません。紙の書籍は、ページ数によっては用紙コストがかさみますが、電子書籍ならファイルサイズが多少増えるくらいなので、コストを理由にページ数を制限する必要もありませんね。 そういう点では、電子書籍が当たり前になった令和の時代には、出版社の仕事にやり方は当然、変化して然るべきです。旧態依然の「製造業っぽい考え」にとらわれず、在庫、レイアウト、原価の制限からより自由になって、今までより柔軟な本づくりに挑戦できる時代なのかもしれません。 などと言いましたが、個人的には「自分たちの仕事はモノづくりだ」という気持ちを強く持っています。編集面では、どういうレイアウトにして、文字のサイズをどうしよう、紙はどれを使おう、ページ数が半端になるから調整しよう、といったことを試行錯誤する中で、細部に至るまでのこだわりが生まれるように思います。熱量、あるいは執着心と言ってもいいかもしれません。具体的な物体がある方が、その熱量、執着の濃度が上がるような気がします。その熱こそが、他にはない、その本ならではの魅力を生むように思うのです。 また、流通(営業)面でも、具体的なモノをイメージして作った本を運んだり、それによって在庫が増えたり減ったり、あるいは、書店というリアルな小売店に足を運んだり。そういった経験があってこその出版、という思いがあります。売れたときの喜び、売れていないときの焦りや落胆も、書店での販売を通した方が、より鮮明に感じられるように思います。 本来は、必ずしも「物体があるからモノづくり」ということでもなくて、紙の本か、電子書籍か、という話でもないのかもしれません。要するに、リアルでありたい、ということなんだと思います。本づくりも流通も、その先にある読者が本を手に取る場面も、できうる限りリアルに感じて、想像して、こだわっていきたいです。アナログで感情的な話かもしれませんが、小さい出版社だからこそ、リアルな感情と、その感情が生む熱量をこれからも武器にしていきたいと思います。