2026.10.26 NEW 社長コラム 重版チャンス 重版ピンチ 出版社の人が好きな言葉に「重版」というのがあります。業界用語ですが、一般的にもよく知られた言葉のように思います。『重版出来』というコミックやドラマもありました。ちなみに「じゅうはんしゅったい」と読みます。 新刊として発売する際の、最初に製作(印刷・製本)するロットが「初版」、売り上げが好調で、初版で作った分では足りなくなったときに追加製作するロットが「重版」と呼ばれます。やや雑な説明かもしれませんが、だいたいそんな意味です。 基本的には、売れないと重版はかからないので、「重版した ≒ 売れている」ことになりますから、出版社にとっては喜ばしい言葉です。私も好きです。重版。声に出して読みたい業界用語です。ただ、実は喜んでばかりもいられません。誠に遺憾ながら「重版したのに思ったほど売れなかった」という事態が発生することがあります。その場合、チャンスは一転、ピンチに変わります。 品切れしたとき、あと1000部なら売れる見込みが立つ。しかし、最低1500部は製作しないと採算が取れない。このような状況が頻繁にあります。出版は、一定数をまとめて製作することでコストを抑えています。そのため、売上見込みが採算ラインを下回ると重版できません。また、実際に売れる部数よりも多く製作しすぎてしまえば、作りすぎた分はコストとなり、最悪の場合、利益が吹っ飛びます。それを避けるため、重版部数を決定する際は細心の注意を払います。しかし、慎重すぎると今度は「予想より売れすぎて、足りなくなる」。あぁ、もっと作っておけばよかった!!となります。 たくさん刷りすぎたら失敗、でも、少なすぎても失敗、嬉しいけれど、どう転んでもリスキーなのが重版なのです。編集者は著者や企画を見る目を養いますが、出版営業は「売れが続くか、続かないか」を見抜く目をプロとして養っていく必要があります。重版の判断が完璧な人がいたら、どこの出版社からも引っ張りだこでしょうね。難しさもあるけど、これが面白いんだよなー!と私は思っています。 重版判断には、情も絡みます。「結構売れているけど、重版可能な最低部数に届かない」というときには、「もったいない!」という思いがにじみますし、編集サイドから、期待という名の圧を感じたりもするので、つい見込みが甘くなりがちです。情に流されずに適正部数を見極める、ドライな判断が求められます。 ただ、実は私自身は、ウェットな判断があってもいいと思っています。「このままじゃ最低部数に届かないけど、なんとか重版したい!」という思いが特に強い場合には「じゃあ、気合でたくさん売るぞ!」という判断をすることがあります。体育会系な感じです。(笑)ただ、気合と言っても、無策で挑んだらほぼ間違いなく失敗するので知恵を絞って、売るための材料や戦略を考えます。 気合でも知恵でもいいのですが、自分たちの頑張りと工夫で想定より販売数を増やすことができたらそれがそのまま利益につながります。重版は「チャンスにもピンチにもなりうる」事態なのですが、自分たちでチャンスに変えていく組織になりたいと思っています。