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  • 著者のコラム

韓国文化・社会の現場から 第1回「キムチ 김치」

著者 髙木丈也(慶應義塾大学)

韓国語の初級テキストに必ず出てくる単語を手がかりに、韓国の文化や社会に対する理解を深めましょう。

 韓国を旅行すると、一日も欠かすことなく見かけるもの。それは、なんといっても「キムチ 김치」に他ならないでしょう。今回は、今や日本でも一般的になったキムチにまつわる雑学をご紹介しましょう。

 キムチとは、白菜やダイコン、キュウリ、青菜などの野菜類を塩漬けし寝かせたあと、水洗いをし、トウガラシやニンニク、塩辛(アミやイワシ)、生姜、セリ、ネギなどを混ぜて、さらに漬け込んだ食べ物のことを言います。一説によると、トウガラシを使った現在のキムチの原形ができたのは17世紀ごろ。現在では朝鮮半島全体でおおよそ200種類ものキムチが作られているといわれています。一般に「辛い」というイメージの強いキムチですが、実際には半島北部のキムチは薄味のものが多く、南部に行くほど辛味になるという地域差をみせます(南部は気温が高いことと関係があるのでしょう)。

キムチ

 キムチは本来、野菜が不足する冬に栄養を補うための保存食としての側面が強いものでした。かつては年末の風物詩といえば、家族総出で冬越しのキムチを漬ける行事、キムジャン 김장 を指すことが多かったようです。キムジャンの時期には、各地に市が立ち、白菜のキムチを100株単位で漬ける家もざらでした。その年の気候や食べる時期から逆算して、キムチに入れる具材や香辛料の量を調整したりもしていたといいます。キムジャンで漬けられたキムチは、オンギ(甕器)と呼ばれる通気性のよい陶器に入れ、日の当たらない庭先で大事に保存したうえで、春先まで食べ続けます。

キムジャン

 しかし、このようなキムジャンの文化も最近では、昔ほど見かけなくなりました。野菜はもちろん、既製品のキムチの流通が進んだこと、核家族化、都市化、マンション化が進んだことなどの影響が大きいのでしょう。1993年にサムソン生命が小学生約500名に「嫌いな食べ物」を調査した結果、第1位が「キムチ」となり、大きな話題となったこともありました(※)。どこの国もそうですが、生活が便利になっていく一方で、古き良き「生活の知恵」や「家庭の味」が失われていくのは、少し寂しい気もします。
(※)参考URL:朝鮮日報
https://biz.chosun.com/site/data/html_dir/1993/06/03/1993060371106.html

 さて、自家製キムチを漬ける家庭こそ少なくはなってきていますが、今でもキムチが韓国人の国民食であることに変わりはありません。韓国料理はもちろん、和食や中華、イタリアンの店に行ってもキムチが出てくるほどです。また、最近では世界的に、健康食品としてのキムチの効果に注目が集まっています。キムチには、ビタミンが多く含まれているので、栄養補給だけでなく、美容効果も期待できるといわれています。また、トウガラシに含まれるカプサイシンは、代謝促進、脂肪燃焼や食欲増進効果もあります。

 ところで、韓国語はキムチの種類を表す言葉が多いことで有名です。最後にちょっとだけご紹介しましょう。

・갓김치(カッキムチ):からし菜のキムチ
・겉절이(コッチョリ):浅漬けのキムチ
・깍두기(ッカットゥギ):カクテキ、ダイコンの角切りキムチ
・동치미(トンチミ):大根の水キムチ(辛いものが苦手な方にもオススメ)
・묵은지(ムグンヂ):古漬けした熟成キムチ(チゲにして食べると美味)

※白菜キムチの漬け方は、以下のホームページで紹介されています。
https://www.10000recipe.com/recipe/6858140
(만개의 레시피(10,000個のレシピ):韓国語)

キムチ

 今回はキムチにまつわるお話でした。皆さんも是非、お気に入りのキムチを見つけてみて下さい。それでは、また次回、お会いしましょう!

※写真提供:韓国観光公社
(上から順に박근형, 한국관광공사 김지호, 알렉스 분도, 한국관광공사 김지호)


記事を書いた人:髙木丈也(たかぎ・たけや)
慶應義塾大学 総合政策学部 専任講師。東京大学大学院 人文社会系研究科 博士課程修了(博士(文学))。専門は韓国語学、方言学、談話分析。著書に『そこまで知ってる!?ネイティブも驚く韓国語表現300』(単著、アルク)、『日本語と朝鮮語の談話における文末形式と機能の関係―中途終了発話文の出現を中心に―』(単著、三元社)、『中国朝鮮族の言語使用と意識』(単著、くろしお出版)、『ハングル ハングルⅠ・Ⅱ』(共著、朝日出版社)など。2019年4月より『まいにちハングル講座』(NHK出版)に「目指せ、ハングル検定!~合格への道~」を連載中。

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